14 みかけるくのいち


ジェノスと一緒にZ市のパトロールへ出た。

「今日は平和ですね、先生」
「そうだな。まあ、それがなによりだろ」

最近少しだけ気がかりなことがある。
結構、大したことだ。

「なまえさんも仕事をしている時間でしょうか?」
「ん、おお、そうかもなー」

なまえ。
俺ができれば仲良くしたいと思っている女の名前ではあるけれど、ジェノスも最近、嫌によく口にする。
はじめは俺の恋路をただただ応援してくれていると思っていたけれど、最近は、もしかしたらそれだけではないのかもしれないと思い始めた。
確信はないけれど、もしかしてジェノスは、いや、ジェノスも。

「そのあたりでばったり会えるといいですね」
「あー、そうだなー」

それは、俺にだけ言っているのだろうか。
それとも、ジェノスもなまえと会いたいと思っているのだろうか。
きっといざ本当にばったり会ったならば、ジェノスはうまいこと立ち回って、俺となまえを二人にさせようとするのだろうが、それでも。
本当のところそれでいいのかは疑問だった。
先日なまえとデートをした日のことを聞かれたので、まるで子供みたいにはしゃいでいたと答えたら、新しい一面が見られてよかったですねとこいつは言ったけれど。
その笑顔の奥に何かがあるような気がしてならなかった。
「俺も見たかったです」素直にそう言ったことにも驚いた。言うということは、自覚がないということのような気がした。
思えばジェノスも、はじめからよく俺と一緒になってなまえの姿を目で追いかけていた。

「先生」

ジェノスが立ち止まったので、何事かと俺も立ち止まると、ジェノスがすい、と指を指した。
その先には。

「あれ、なまえさんじゃないですか?」
「あー、ほんとだな。なんだあいつ、刀なんか持って」
「何を、しているんでしょう」

なまえは立ち止まってきょろきょろとして、何かを探しているようだった。
その瞳は、この間のイベントの時のようにキラキラとしていて、表情は楽しそうで活き活きとしていた。

「何か探しているように見えますね」

焦っている感じではないから、財布をおとしたとかではなさそうだ。
まるで、遊んでいるようにうきうきとしていて、もしかして探しているのが人なのだとしたら、そいつは一体どんな奴なのだろう。

「先生? 声をかけないのですか」
「え、いや、楽しそうだからつい」
「? 行きましょう」

俺はどちらかというとなまえを眺めていたい気がした。
フードの下に隠した顔が、俺たちをみつけたら、また少し困ったりするんじゃないだろうか。ジェノスは簡単に踏み込んでいってしまうけれど。
確かに、遠慮していてはなまえと仲良くなるのは難しそうだけれど。

「あ」
「どうかしましたか、」

なまえの目の前に腰になにやら刃物をじゃらじゃらつけた怪人が現れた。
二人は一言、二言会話を交わしたようだったが、なまえが怪人の後ろになにかをみつけて、刀を握る。
ここまで届いたその一瞬の刺すような鋭い空気に、俺たちも動くことはできなかった。
そのすぐあとになまえは走って行ってしまったから結局声はかけられなかったのだが、なるほどなまえは想像以上に俺たちに見せていないものがたくさんありそうである。

「今日は帰るか」
「……」
「ジェノス?」
「あ、はい!」
「聞こえてたか?」
「はい。帰りましょう」

俺よりも長く、なまえが走り去った先を見つめていたジェノス。
どうにもやっぱり、俺がなまえを気にしているから、という話だけではない気がしてならない。
そして今日、もう一つ、気になることが増えた。
あの時、怪人の後ろに走っていたのは、ソニックじゃなかっただろうか。
なにかしら繋がりがあるのだろうか。
俺たちは勝手に、なまえの傍になんの影もないため、近しい人間は少ないのだと思っていたけれど、まさか、そんな。
でも恋人がいるなんて話は聞いていないし。
けれどそのように悩んだところで、変わりはない。
ただ、ソニックはなまえにあんな顔をさせられるような存在であり、最も近しいのかも知れない、とそういう可能性があることは事実だった。
どちらの憶測も、勘違いならばいいと思った。
特に、ジェノスは、強敵な気がしてならない。


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2016/1/9:ジェノスくんは若いからなあ(意味深)
 
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