13 おいかける
ソニックはクレープを食べ終わったその30秒後、でははじめるか。と言って逃げてしまった。
ちなみに私はまだ半分くらい残っている。
まあ、食べてからでいいかとそのあたりのベンチに座り。
ひとしきりゆっくりとしてから立ち上がる。
ここはZ市の割合に栄えているエリアだけれど、これだけ家やらビルやらが建っているとどこにいるのかさっぱりわからない。地面だけ探せば良いような小学生の鬼ごっことは違うのだ。
時折暇つぶしと気が向いた時に行うこれは、地下あり地上ありの街にあるもの全てを使っても良いルール。
彼は音速の、と名乗っているだけあって、どこかに隠れている、ということはない。
スピード勝負となると残念ながら私では勝てない。
そんな私にソニックは私の刀を作業場から引きずり出して来て、私に装備した。
故に、先ほどは刀を背負った不審者二人が公園の端でクレープを食べていた。
数多くのお客さんを相手にして来ただろう、クレープ屋のお姉さんも流石に苦笑いであった。
「無人街の方だとあんまり人目を気にしなくてもいいから楽なんだけど」
フードを深く被って、ぎゅっと前を向く。
走り出したのはあっちのほうだった。
制限時間くらい設けてほしいものだが、これはだいたい鬼の方が飽きるまで終わらない。
このあたりはなんだか子供の遊びそのもの。
それもいい。
ぐ、と足に力を入れて走り出す。
ソニックほど鍛錬もしていなければ、毎日機械と向き合っているため、やはりそれほどスピードは出ないが、それでも普通の成人女性の何倍かは早い。
「そんなものか?」
ざ、と周囲を確認するために立ち止まった時、木にぶらさがって、にやりとするソニックから声がかかった。
あんなに先に逃げたのに、こうして鬼を挑発にくることも忘れない。
私も真似してにやりと笑う。
「そんなに不用心に姿を見せてもいいの?」
スピードを上げて真っすぐ突っ込むが、当然これは躱されてしまう。
流石に、最近は仕事もせずに毎日毎日鍛錬しているだけのことはある。
「そうだ! いいぞなまえ! 追ってこい!」
「楽しそうだねえ」
言うが、私もこうして遊んでいるのは楽しくて仕方が無い。
ソニックはまたどこかの影に器用に隠れて姿を眩ませるが、高笑いしているせいでなんとなく方向がわかる。
私もそれを追いかける。
男女が追いかけっこをする描写はよく見るけれど、気持ち的にはそれとよく似ているのかも知れなかった。
しばらく走ったあとに、ソニックの高笑いが聞こえなくなる。
私もぴたりと止まってきょろきょろしていると、後ろから声をかけられる。
「おい。お前!」
「……」
私の身長の倍はある、その生物は腰から包丁や刀、のこぎりやはさみなどをぶらさげている。
怪人だ。
「ぐへへへ、良い刀を持っているな、この怪人トーケンオトコ様に献上しろお!」
だ、大丈夫かそのネーミング。
各方面から怒られるのではなかろうか。
もっと単純にカッターナイフとかにしておいたほうが良かったのではないか。
私は一瞬考えるけれど、その後ろに走り去るソニックが見えて、それどころではなくなった。
鍛えるのをやめてしまったせいで体力もない私ははやいところ捕まえられる距離までいかなくては、長引いては不利になる一方である。
「さもなくば、ん? なんだお前、俺様とやろうってえのかあ!?」
刀の柄の部分をしっかり握って対峙する。
「ちょっと邪魔、かな」
言い終わる頃には、私は怪人の後ろに居る。
刀を抜いたのは一瞬。横一線に切り裂くと、すぐに刀身を鞘におさめた。
すぐあとに断末魔が響いたけれど、どうでもいいことだった。そのうちに誰かが通報するなりなんなりして片付けることだろう。
「さて」
気分がいいから、水を差さないで頂きたい。
今全力で、遊んでいるところなんだから。
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2016/1/9:ソニックが語る話しが実は一番少ない。