夏になりかけの晴れの日


夏服が欲しいなあとなまえが呟いた。なんでも、ものが大量にあるのが煩わしくて、まとめて全部捨ててしまったんだとか。

「買いに行くのか?」
「そうだね、次の休みまでには」
「へー、俺もなんか買おうかな」
「いいね」

言いながら、なまえは持ってきたパソコンを開いて、俺はひょいと立ち上がった。俺たちはふと目を見合わせる。……今のは、絶対二人で買い物に行く流れだと思ったのだけれど。

「え? 行く? 今から?」
「いや逆に行かねーの?」
「今日?」
「今」

せっかく天気もいいし、半袖とか着ていったら暑くもなく寒くもなくって感じだろ。なまえは窓まで這って行って空を見上げる。薄くモヤのかかったような空。でも、雲はなくて、冷たい風が吹いている。夏が近づいているのが明確にわかる、春と夏との間の青。
なまえはこちらを振り返るとへらりと笑った。いや、嫌なら無理にとは言わねーけど、と言いかけたが、言ったら、行かないことに決まってしまいそうでやめておいた。明日はキングが来るらしいから、昨日何してたか、って話になった時、ほら、なまえとデートしてたって言える方が、な? なんかいいだろ? そう思わないか?

「うーん、悩ましいね。外に出たい気も、出たくない気もしてるんだよ」

なるほど、こういう時はなにかひと押し、魅力的な提案をしてやれればきっと。何かあったか。今日は野菜の安売りもしてないけど、ええと。

「……あ、」
「ん?」
「自転車でいこーぜ!」
「自転車?」
「そうそう。昨日家の前に捨ててあったんだけど、綺麗だからもらっといたんだよな」
「乗せてくれるの?」
「そりゃそうだろ」

坂とかあるけど、わざと山の方の道通って、ちょっと遠くの店まで行こうぜ。川の横とか自転車で走ったら気持ちいいんじゃないか? 俺がやや早口で言い終わると、なまえは、大きく頷いた。
小さな子供みたいな無邪気な笑顔だ。

「楽しそう」

なまえも、俺の隣で立ち上がった。


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20190511:無免くんにあって軽く注意されたりして……
 
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