直/曇り空


雨が降るかもしれないな、降らないかもしれないけれど。
鞄には大体いつも折りたたみ傘が入っているから大丈夫、少しの雨ならなんの問題もない。そう思いながら電車の窓から空を見ていた。
ただ、すごく降られて電車が止まってしまうのは困る。だが、そうはならないだろうと信じていた。
会社に着いて昼休みの間は晴れて太陽が出ていたし、それ以降も雲が出たり日が出たりと半端な天気が続いていたから。
終業後、会社を出ると、空気中の湿気が喉に張り付くのがわかる。雨には至らないが、空気が湿っている。
指先で首に触れると温かくて、湿気で少し柔らかいのだが、先程までのデスクワークのせいで芯の方は固くなってしまっている。あーあ、とは言わないが小さく息を吐く。と、ふと、この曇り空には鮮やかすぎる黄色を見つける。

「あれっ?」

ビルのすぐ前、道の明かりの下にサイタマが立っていた。「よー、遅かったな」と声をかけられる。遅かった? もしかして、今日なにかサイタマと約束していただろうか。慌てて駆け寄り、待たせてしまったことを謝る。

「いやいや、勝手に待ってただけだし気にすんなよ」
「そう……? ならいいけど、何か用事だった?」
「あー、用事っていうか」

サイタマは手に持った立派な傘に一度視線を落としてから私を見る。傘? この天気になにか関係がある用事だろうか。

「ジェノスの奴がさ、今日は絶対雨が来るだろうからって」
「ふうん。じゃあ、これからかな」
「それなんだよ」

「それ」私はキョトンとサイタマを見上げ続ける。

「それもとんでもない勢いで降るっていうからさ、 ダサくてもでかいヤツがいいなと思って持ってきたんだけど」
「なるほど」
「あーー……、だから、その、俺の言いたいこと、わかる……?」

わかるよ、と私はサイタマの隣に並んだ。たぶん言いたいことはわかった。やりたいことも理解した。「マジ? さすがなまえだな」サイタマは何を確認するでもなくそう言って安堵していた。
その後、こほん、とひとつ咳払いをしてサイタマは笑う。

「おつかれ。帰ろーぜ」

傘はたたまれたままだったけれど、今日のところはこれでいい。


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20190421:なんでもないような感覚を共有するシリーズですたぶん。
 
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