直/風の強い日
なまえは時々、不思議な事を言う。俺には理解されないことをわかっているのかいないのか、俺はなんとなく複雑な気持ちになったりするのだけれど。それでも、うさぎかリスのようにぱっと顔を上げて、宝物を見つけたみたいに目を輝かせて言うものだから。
「今、波の音がしたね」
「ほんとに?」とか「そうか?」とか「どこで?」 とか、全部飲み込んで、話に乗っかってやるのが好きだった。俺は「うーん」と顎に指を当てて否定も肯定もしないまま聞く。
「海の?」
「前遊びに行った、近くに神社がある湖の波の音」
「あー、あそこな」
理屈などない感覚の話だから、きっとこれで正しいのだ。強い風がなまえの髪を揺らしている。俺にはマントくらいしか揺れるものはないのだけれど、この公園は花見客がたくさん来る為、テントがいくつか出て、店を出しているので、そのテントの厚いビニールがばさばさと揺れたりもしている。
「ほらね」
なまえが嬉しそうにしているので、正直理解しないでもいいのだけれど。今日は珍しくなまえの言っているのことがわかる気がした。
また風が吹く。
ああ、この、テントのビニールが揺れて支柱にぶつかったり擦れたりする音が、確かに、波に似ている。
「あそこの温泉、良かったよなー」
次に行ったら、波の音をちゃんと聞いてみようと決めた。
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20190418:ほのぼのさせたら勝ちってことで