どうか思い知ってください08


なまえの中から出てきたモブは言った。「中からどうにかするのは無理そうでした」と。明るい部屋の空気が重くなったが、「ただ、」とモブは続ける。俺は身を乗り出して、モブの肩を掴んだ。「ただ、なんだ……!?」

「呪いを飛ばしている本人を救えたなら、なまえさんも助かるかも」

知れません、と、モブは言った。

((どうか思い知ってください:08))

モブの話では、なまえは、心の中で呪いと常に対話をしている状況だと言う。起きられるのは呪いの勢いが弱まった時のみ。強い新しい感情が飛んでくるととてもじゃないが意識を保てない、と。呪いは積もり積もってどんどん強くなっていて、つまり、きっと、呪いを飛ばしている人間が常に苦しんで追い詰められているのだとなまえはモブに話したそうだ。

「言いたいことは、まあ、わかった」

なまえのやりたいことも理解した。しかし、なまえの友人、などと言われても特定できない。あいつは友達が多かったし、有名人だ。しかも綺麗で、かっこよくて……、いや今それは良くて。だから多分、恨まれることなんてしょっちゅうだったんだ。そうやって生きるのに慣れすぎて、楽観視していやがったんだろう。

「それでなまえは、どうするって?」
「それは……次ちゃんと起きた時に手紙を残しておくからって……」

次、起きた時? 起きることなんて、本当にあるのだろうか。前だって、本当にかすかに目を開けて、声さえ出せなかったってのに。俺はその時相当に不安そうな顔をしてしまっていたのだろう。なまえとの付き合いなど無いに等しいエクボに「大丈夫だろ。なまえは弱くねえ」などと慰められた。そんなことは俺が一番知ってるんだっての。
だが、油断をするとふと、あの病室が脳裏に浮かぶ。ああ、現状を知ったら不安で仕方がない。なんだって俺は、いいや、あいつだってわかってたくせに言わないんだから同罪で、しかし、そうとは知らずにテレビ持ってたったり運が良くなるなんて喜んだり……。俺は何度か頭を掻き毟りたい衝動に駆られながら眠りについた。



最近少し、病院に行く頻度があがった。芹沢やモブ、エクボにも近くに行くことがあればついでに様子を見てきてくれるよう頼んでおいた。
今日は俺が病院へ行く。いつもの様に花を持って。
紳士的にノックをして、返事がないことにガッカリしながら中に入る。
扉がいつもより重くて、両手を使った。花の包装紙に少しシワが寄った。
本当に重いなあ、もしかして、呪いとか生霊の影響だろうか。
俺は一人で文句を言いながらどうにか扉を開けて病室へ入る。
窓が空いていたようで、ざあ、と風が後ろへ抜けていった。窓が空いてる?
ベッドを見ると、なまえはいなくなっていた。
綺麗に整えられたシーツにはなんの気配もない。花も片付けられているし、便箋もない。ペンも、なまえのいた形跡、なまえそのものもどこにも。

「おいおい、なんの冗談だ……」

何かないかと整えられたシーツをめくる、マットレスをひっくり返す。他のやつにはそれでよくても、俺にくらいは、なにか、何か一つくらい。
ひとしきり部屋をあらすが何も出てこない。ホコリとかチリとかそういうものも舞い上がらない。クソ、悪態をついて壁を叩く。
一体どこにと、窓に視線をやれば、窓の外を大きな影が通り過ぎて行った。上から下に落ちていった。病院服に、すらりと伸びた手足。今のは。
目が合った刹那、なまえは、満足そうに微笑んだ。
俺は動けなかった。


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20190415:リクエスト企画締め切るまでには終わらせたい
 
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