直/春の日


ごめんな、とサイタマが言うので、何が、と返した。

「いや、なにがって、ほら、これだよ、これ……、ひどいもんだろ……」

私はサイタマの怪人の血で赤く染った全身を見てから、同じく血がべっとりとついた桜を見上げた。花見に来て、見にきた花が血に染まるというのは、良い風景、とは言えない。

「でも、みんな無事みたいだよ」
「んん、まあ」
「良かったじゃない」
「まあ……」

私の服にもいくらか血がついてしまっている。ここからなら私の家の方が近いなと計算して、サイタマの返り血に塗れた腕を掴む。「行こう。シャワーと着替え貸すから」「え、マジで?」マジで、と私は頷き、サイタマは手袋を取って私と手を繋ぎ直した。
現場を少し離れたら、何故か血濡れの、へんなカップルだ。職質されない内にこの場を離れよう。



ありがとな、とシャワー室から出てきたサイタマが言うので、どういたしましてと応えた。丁度出てくると思ってお茶を用意しておいたから湯のみに入れて手渡した。
サイタマはソファに座ると「んー」と堪らなそうな顔をしてお茶を啜っていた。そんなふうに飲んで貰えたらお茶も本望であろう。

「なまえは入ってこないのか?」
「私はいいよ、服がちょっとと、手についたくらいだし」
「ふうん。まあ、いいならいいんだけどさ」
「うん」
「なあ」
「ん?」
「それ、後にしてさ。こっちでテレビ観ようぜ」

サイタマが手招きするので、弁当箱を洗っていた手を止めて、水も止めてからソファに近付く。幸せそうにだらだらしているサイタマの手が届く距離まで行くと、その瞬間が待ちきれないとばかりに身を乗り出して私を掴むから、腕の中に捕まった。

「テレビ、見えないけど……」
「いーよ、そう面白くもねえし」

最初からこれが狙いであったらしい。ソファは柔らかいから体に負担は少ないが、サイタマがのしかかっているから少し苦しい。息をすると、嗅ぎなれた匂いと、最近使っているボディソープの匂いがした。血の匂いはすっかり消えている。

「んー……」

サイタマが、満足そうに私に擦寄るから、私は手のひらでサイタマのよく鍛えられた体に触れた。筋肉の形がはっきりわかる。ヒーローって感じだ。

「そう言えば、助けてくれてありがとう。サイタマ」
「……もしかして、さっきの怪人からって話か?」
「そうそう。こういうのは、ちゃんとしとかなきゃあ」
「いやいや、助けるも何も。助けるも何もお前、そりゃ、そうだろ」

ちょっとむっとしたような声がしている。私は軽く笑って背中に回っている手に力を込めた。ささやかで、彼が感知できているかはわからない。「まあ、俺はなまえのそういうところ、好きだけど」ため息が聞こえた。少しだけ、私たちの身体と身体の間に隙間が空く。

「……ところでなまえ、今から、いいかな」

にこりと笑うと、唇に噛み付かれた。


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20190412:フツーーーにえろも混じえた恋人同士のシリーズ書きたいと思った為
 
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