どうか思い知ってください04


壁も床もシーツもいつも同じで、ここにずっと眠っていると、時間がわからなくなって、季節がわからなくなって、もしかしたら、自分がわからなくなってしまうこともあるかもしれない。
だから、俺はなまえの部屋に新しい花を持っていく。
一人ではないとわかるように。

((どうか思い知ってください:04))

なまえを初めて知ったのは、平日の朝のテレビドラマ、だった。親が繰り返しみているのをよくもまあ飽きもせず、などと呆れていたのだが、俺も人のことは言えない。なまえが、謎の多い転校生の役で出てきた時から俺も一緒になって見ていたから。

「昨日掃除してたらさ、お前に書いてもらったサインが出てきてな、事務所に飾ってやろうかと思ってる。DVDも山のようにでてきたから、モブにでも貸してやるかな。まあ、あいつにはまだ、お前のこと、言ってないんだが」

揺れるカーテンを見る、俺がここに訪れることで、なまえのなにかが癒されることを祈りながら、窓枠に縁取られた空を見上げる。

「エクボのやつ、頼んでもないのにたまにここに遊びに来てるだろ? お前はああいうやつ、嫌いじゃないだろうって思ってるんだけどさ。迷惑かけたりしてたら教えろよ、改めるように言ってやる」

多少のことでは、わざわざ俺に知らせに来たりしないだろうけどな。と、今日は少し長めに時間をとったから、土産を冷蔵庫に入れて置いて持ってきた新聞やら雑誌やらを広げる。
今流行りの女優の記事が大きく取り上げられている。その女優が有名俳優と熱愛しているだの、ファンの素行が悪いだの、挙句の果てには悪質なストーカーまで居るらしいと書かれている。うーむ。悪質なストーカーか。なまえも時々とんでもないようなプレゼントとか手紙をもらっていたことがあったな。あいつの場合、俺に教えてくれて大笑いしていたが……。写真に取られているこの女優は何やら疲れきっている。

「お前も、俺の知らないところでこんな顔をしてたのかねえ」

なまえと俺とは奇跡的に友人になったが、俺がなまえにできることは多くなかった。今だって、俺にはなまえが起きている間だけでも、なまえの心がちょっとでも楽になるようにと、得意の細々したことしかできないまま。

「手紙、くれてもいいんだからな」

言うと、左足に何かが乗った、何事かと新聞紙を目の前から退かすと、なまえの白い手が置かれていた。慌ててなまえを確認すると、微かに目を開いて微笑んでいた。あらたか、と唇が動いた。なまえ、

「なまえ、」

俺がどうにかなまえを呼んだ時には、なまえはまた寝入ってしまっていた。久しぶり、とか、調子はどうだ、とか用意してきた菓子の話とか、名前を呼んで笑い合うこととか、何一つできない、たった数秒の出来事だった。


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20190406:力がないことを知っている
 
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