どうか思い知ってください02


テレビはどうしたのか、と聞いてみると、「まあ行けばわかるって」などと言われた。仕方が無いのとほんの少しだけ興味があったので指定された場所へ行ってみれば、商店街のイベントで当てたテレビがそのままに置いていった。

「バカだろ……」

俺様は思わず声に出すと、病室に居た一人の女がこちらを見た。

((どうか思い知ってください:02))

しばし見つめあっていたが、女はへらりと笑って「なんかごめんね」と言った。予想外の言葉に返答に迷っている間に、女はベッドの縁に座って、「新隆からの手紙に紹介されてたから。ごめんね、退屈な仕事でしょ」などと言った。
今しがた目を覚ましたとは思えない程覚醒している、し、どうやら、見慣れているようである。
ふわりと近寄って、正面に移動した。
どうするか。
決断は早い方だと思うのだが、また、迷っている間に女の方が先に動いた。

「みょうじなまえって言います」

穏やかすぎる挨拶にまた、返す言葉に困る。差し出された手に、こちらも手を出して応えることにして、なまえは世紀の大悪霊と反吐が出そうなくらいの平和的な握手をした。「エクボだ」

「うん」

よろしく、などと、なにをよろしくされたんだか。
なまえはばたりとベッドに倒れて、目を閉じた。起きているようだったら教えに帰ってきてくれ、と言われているのだが、霊幻の所へ行って、またここに来ていたら、到着する頃にはまた眠っていそうだ。

「寝るのか」
「そー、だね、ごめんね」
「いや、」

霊幻のヤローの怠惰だろ、と見下ろした。なまえは少しだけ笑って、「今日は無理そうかなあ」と瞼と体が重くて仕方がない様子だ。「もう少し、話がしたかったけど」今日わかったことは、霊幻の特別中の特別らしいこの女は、割合に頭がいい事と、穏やかで静かで悪霊に握手を求める世間に馴染むのが大変そうな奴だってこと。

「新隆に」
「ん?」
「テレビ、もう見たからって」

ふ、と口元が緩む。
なんだか難しい笑顔だった。喜んでもいるし嬉しくもあるんだろう。霊幻の阿呆みたいな行動に安心感も与えられているのだろう。しかし、その生温い感情の全てに詫びる様に笑っている。

「安心しろ、持って帰るように言っといてやるよ」

この病室は、居心地が良くて空気が清涼だ。どこからともなく涼しい風が吹いている。強くなく弱くなく、空気を循環させている風が、この空間の異常な澄の正体だろう。作り出しているのは、なまえ、なのだろうか。
そんなことに気を取られていたから、なまえが寝入ってからもしばらく、便箋と花瓶のあたりに降りて、ぼうっとしていた。


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20190325:素直になりたくなる
 
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