どうか思い知ってください01


「師匠はすごいなあ」などとモブが言うから振り返る。「どうして、そんなに運がいいんですか?」と予想通りの言葉が続く。俺は背中に背負った4Kテレビの重みに酔いしれながら言う。

「俺には、勝利の女神様がついてるからな」

((どうか思い知ってください:01))

正直かなり白い目で見られながら、なまえの病室に入った。「よう、来たぞ」言いながら、テレビを床に下ろしてベッドの横に座る。今日も眠っている。
あれから一度くらいは目を覚ましただろうか、と花瓶の傍の便箋を見ると、俺からの手紙は回収されている。きっと読んでくれたのだろう。返事はないが、この、普通ではないツキ方を見れば、なんとなしになまえを感じる。
テレビはちょうど買い換えようと思っていたから有難いが、どうせなら、高級なメロンとかいちごとかの方がよかった。いや、なまえの手前そんなことは言わないが、なまえの手前だからこそ考える。
テレビは俺が貰うしかないが、食べ物なら、起きている時にでも一緒に食えたかもしれないのだ。

「起きないのか? 今日はいい天気だぞ」

自分の部屋、事務所の次によく来るこの場所で、俺はまた窓を開けてやって外を見る。なまえからの返事はない。起きないとなると、テレビをどうしておくか、それが問題だ。
見せてやると書いたのだから、見せない訳には行かない。まあこんなもの、直ぐに必要なものでもないし、次に来る時まで、ここに置いておいてやろうか。
なまえが起きた時、困り顔の看護師と目を合わせて、「なにこれ」と呟くところまで容易に想像出来た。そのあとの笑顔の想像は少し難しい。昔であれば手放しに笑っていたが、もしかしたら、今だと少し、困らせるかもしれない。笑うことは笑うのだろうが、どんな種類の笑顔であるかはわからない。
笑った後、どうするかもわからない。手紙は残さないだろうから、ちゃんと見た事が俺に伝わるように、なまえは、どんな手を使ってくれるのだろう。
相変わらず面白いなあ、新隆は。と、もう数ヶ月は聞いていないなまえの声が、鮮明に再生される。そろそろ、起きている時に会いたいものだ。

「さて、と、今日の手紙でも書くか!」

かと言って、俺が四六時中ここにいる訳にも……、あ、そういや、そんな雑務を頼めそうなやつがいるなあ。
なまえがもし出会ってしまっても、見えてしまっても大丈夫なように、予備知識だけ書いておこう。紹介してやるのは癪だが、きっと問題ない。なまえだってきっと、新しい出会いは嬉しいはずだし、あいつが話し相手になってくれるなら、なまえも寂しくないはずだ。
その役は、いつだって俺がいいけれど。それが常に最善策とは限らない。


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20190324:ひとりごと。
 
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