どうか思い知ってください/霊幻新隆


それは一体何なんだ、などと、いつだかエクボに適当な聞き方をされた。俺は言ってやった。臆面もなく、に、と笑いながら。

「俺の神様さ」

((どうか思い知ってください:00))

白いばかりの部屋は、通い始めた頃に比べたら、大分静かになっていた。行けば誰かしら居たものだが、あるいは、行くたびに違う花が置いてあったりしたものだが、今では、誰と会うことも無いし、花も、俺が持ってきた貧相なものを大事に活けてあるのである。

「入るぞ、なまえ」

ノックをしても返事がなかった。寝ているのだろうけれど、そう言ってから扉を開ける。ベッドに近付くと、なまえはいつも、腹の上で手を組んで祈りながら眠っている。

「花の水、替えておいてやるからな。感謝しろよ」

持ってきた白い花よりなだらかで、美しい頬に指をつけながら言ってみるが、反応はない。ただ、深く深く、呼吸を繰り返すのみである。今日は起きそうにないな、付き合いの長い俺は大体この時点で今日のこいつの調子がわかってしまう。

「ついでに空気も入れ替えるか」

水を替えて花を足して、窓を開けると、さあ、と細やかな風が吹き込んできた。なまえの前髪を浮かせて、きら、となまえの長い睫毛が強調される。
窓に寄りかかって、花瓶近くに常備された、便箋とペンを持つ。話しながら、書き込んでいく。
新しい常連客が出来たこと、弟子に悪霊が取り憑いたこと、変わりないこと、元気にしていること、相変わらずジャンケンが強いことなど色々書いた。
いつも、返事はない。曰く、下手に返事なんて書いたらそれを楽しみにされてしまうかもしれないし。らしい。楽しみなんて、別に、この綺麗すぎる顔を眺めているだけで十分にあるのだけれど、他の奴らはなんにもわかっちゃいない。
いつ起きるかもわからないのだから、なんの期待もして欲しくはないし、定期的に通ってくれる必要も無い。なまえは当然のことみたいに言ったが、本当にそうなってしまったら、なまえは生きていても、死んでいるようなものだ。
だから、というわけでもないが、俺はここに通っている。
二週間に一度、月に二度か、三度。月に一度も来なかったことはない。

「そうだ、あと、」

次の日曜、商店街のイベントがある。弟子も混じえて、出張所を出す予定だ。そして最後には、ビンゴ大会もあるので、何か良いものが当たれば、お前にも見せに来てやるから、と書き添えた。
これでよし。
どうしてか、なまえに次の予定を話しておくと、(なまえがこうなる前から)何かしら良いことが起こるのであった。いや、だから、通っている訳では無い。し、あまりに期待しすぎると起きないこともあったから、断じて、そういう目的で来ている訳では無い。そうだとしたら、近況報告など必要ないのである。

「これでよし」

窓を占めて、前髪を戻してやる。
さらさらと細い髪が一本巻きついてきたが、丁寧に外して、撫で付ける。掌に、なまえのわずかな息が当たってどきりとする。ああもう。ほら、違うだろ? こういうことなんだよ。
何も話さなくとも、目が合うことすらなくとも、俺はどうしようもなく、この女に囚われていたいと望んでいる。なまえが例え、そうでなくても。……うん。だからこれは。

もう、希望もない、続きも期待できない、行き止まりでどん詰まりの。終わってしまった恋の話だ。


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20190322:続き書いてもいいですか?
 
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