日曜日の前向きさんA


霊とか相談所に出入りするようになって、変わったことがいくつかある。良いのか悪いのか、私にはいまいち判断がつかないのだけれど。今日もまた。

「よう、おはよう」

などと、上級悪霊のエクボは言った。わざわざ無い手を作ってまで手を上げる人間くささに、なんとも言えない気持ちになりながら私も応える。「おはよう」言えば、エクボは満足そうにふわりと私に寄ってきて、頭の上に着陸した。重量感、という程のものは無いが、のしり、と何かが乗った感覚はある。

「今日は起きるの遅かったなあ?」

髪に触れられている感覚、ふと鏡を見ると寝癖で跳ねた髪の毛をたしたしやって遊んでいた。私はそのままお湯を沸かして洗面所で顔を洗う。エクボに一瞬どいてもらって簡単に髪をとかして、それでもどうにもなってない毛束は後でアイロンをかけなければ。
頭の上にエクボが戻ってくると、ひと房だけ明後日の方向に曲がっている髪をぐ、と押さえてくれていた。
そのうち離して、またみょん、と暴れる髪の毛を見て、エクボは「こいつは頑固だぜー」などと笑っている。

「なあ、今日もついてっていいか」
「憑いてくる? いいけど、きっと面白いことは無いよ?」
「いや、お前は面白い」

「あ、そう……?」ビンゴ大会で当てたコーヒーメーカーにコーヒーを作ってもらいながら、沸かしておいたお湯でお茶を作る。今日持っていくのはほうじ茶だ。
しかしその自信満々の断言は一体何なのか。知り合ってから、部屋に遊びに来る頻度は徐々に増し、仕事場に憑いてくることもしばしばある。
実害はないから好きにさせているが、彼は一体何を面白がっているのだろうか。ひと月経ってもわからない。
エクボを退かして寝癖を直し終えると、エクボは頭の上にだらりと広がった。髪に与えた高温が気持ちよかったりするのかなんなのか、いつもやっている。「なんの意味が?」とは、なんとなく聞かないままだ。
これから化粧をするのを知っているエクボは肩に移動して首のあたりで遊んでいる。遊べるほどのスペースもないが、肩を叩いたり筋をなぞったり暇を潰している。
化粧の途中で、エクボが言う。

「朝飯とか弁当とかは?」
「今日寝坊だからなし」
「ホントは?」
「エクボ来るなら外でパンでも食べようかな、と」

社内だとあんまり大きな声では話せないし、唯一構える時間なのだから、せっかくだし。私が言うと、すり、と首に擦り寄られた。「ほらな、おもしれーだろ」とも。エクボはここ一週間くらいから途端に体と体を触れ合わせてくるようなった。なんとなく肌が動く。彼の体は暑いような冷たいような。
私の体温を反映しているみたいな温度をしている。

「帰り、寄り道してこーぜ」

肩で頭でふわふわと蠢く悪霊に、すっかり慣れてしまっている。


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20190316:エクボと@
 
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