かまって欲しくて仕方がない(1)


双子の兄から、ヒーローになったと連絡があった。
「おめでとう」と返すと、いろいろ話したいこともあるし暇だから飯でも食おうという様に事態は流れて、私は兄であるサイタマのヒーロー認定おめでとう会の費用を持つことになってしまった。
とは言え、兄さんもちゃんと悪いとは思うらしく、場所はZ市のファミレスだった。
お金について心配することはないのだけれど、それを口にすると一気に焼肉とかになる展開が見えて言わなかった。

「ずっと趣味でやってくんだと思ってた」
「んー、まあなー、別に人気が欲しいとかそういうのじゃないんだけどなー」
「あー、わかる」
「適当に返事したのかわかってんのかどっちだよ」
「どっちも」

カルボナーラの上に乗っている温泉卵を砕いて混ぜる。
外食なんて久しぶりだ。
自慢ではないが私も兄に負けず劣らず家に引きこもっている。

「まあ、私は、そもそも兄さんはヒーロー協会の存在とか知らないと思ってたからちょっと意外」
「言えよ、知ってたなら!!」
「誰か親切な人に教えてもらった?」
「ん、ああ、その件なんだけどな……」

ちなみに兄が食べているのもカルボナーラだった。
真ん中にはポテトが置いてあって、このあとデザートも来ることになっている。
兄は何を考えているんだかわからないぼうっとした顔で言った。

「弟子ができた」
「へー、笑える」
「……それだけ?」
「兄さん強いし、まあ不思議なことでもないんじゃないの?」
「……でも、俺だぜ?」
「そんなこと知らないけど」
「冷たくね?」
「まあとにかくめでたいんじゃないの? それともその弟子ってそんなに変な人なの?」
「変っていうか、サイボーグだ」
「へえ?」
「サイボーグなんだよ」
「兄さんの家に取材に行っていい?」
「おー、来い来い、あれ? でもお前、ペットがいるって言ってなかったっけ。でかい黒猫」
「大丈夫」
「ふーん? 大丈夫ならいいんだけどさ」

でかい黒猫、と聞いて少しサイボーグに期待していた心が下がる。
自分で言っておいてなんだが、私はどうしてあんなものを飼っているのか、自分でもさっぱりわからない。
カルボナーラを綺麗に食べ切ると、兄の分のコップももってドリンクバーへ向かった。
適当に氷を入れて、野菜ジュースを2杯。2杯目の半分くらいまで入れたところで、ファミレス、外の駐車場、店内の様子が伺える窓のそばの木、枝の奥。
きらりと光る不機嫌に少し濁った水色の瞳。
私は思わずビクリと体を震わせるが、気付かなかったことにして席に戻る。
見なかった。最近家に入り浸っている忍者の姿など見なかった。多分幻覚とかそっくりさんとか、そういうものであるにちがいない。
席に戻ると、このぼけっとした兄に相談するべきか迷う。

「さんきゅー、なまえ」
「うん、あ、ポテト食べていいよ。しっとり系ロングサイズ」
「マジで? なんか悪いな」
「いいって。そんなことより兄さんストーカーって知ってる?」
「おー、厄介だよなー、この前ポテト盗まれてさあー」

正直何を言われているのかわからなかったが、どうやらこの妹にしてこの兄あり、兄も同じくストーカー被害に悩まされたことがあるらしい。
ならば話は早いと話を。

「あ」

声をあげると、「ん?」と兄が振り返る。
後ろにすっと影が落ちる、さすがにファミレスに入ってきたこの男は私服であったが、頬の紫色の線と女も悔しくなるような綺麗な長髪が少し店の雰囲気から浮いていた。
す、と刀を振り下ろす、いやいやいやいや、それは、困る。
きっと兄にはかすり傷一つつかないのだろうが、交われば何かしらの形で店に迷惑がかかる。
それはまずい。
どうしてもまずいことだった。
だから。

「ここで暴れたら一週間家にいれない」

振り返った兄。
その間抜けな顔面のほんの数センチ手前で、私をストーカーしている暇な忍者、音速のソニックの刀がぴたりと止まる。
兄、サイタマは、「へ?」と気の抜けた声を出して、攻撃してきた黒づくめの忍者の顔をまじまじと見上げたり、私のとても複雑に歪められた表情を見たりと忙しそうに首を動かした。
ソニックは兄を射殺さんばかりの眼光でもって見つめていたが、そっと刀を引いて私の方を見ていた。

「え、なに? 知り合い?」
「なまえ」

ソニックは私のそばに歩いてきて言う。

「暴れなかったぞ」

当然である。
が、水色の瞳はやたらときらきらとしていて、私になにか期待しているらしかった。
この男は。
私は盛大にため息をつく、状況のすべてを説明するのが面倒だ。
兄さんはわけがわからないと視線を彷徨わせて、しきりに「説明してくれよ」と言っているが、また折を見て説明するから今は無視だ。
今日のところはこの店から出た方が良さそうである。
まだデザートが来ていないが、それはこの兄に捧げて、一足先に帰るとする。
弟子のサイボーグのこともその時に紹介してもらうことにしよう。
どうせこの兄のことだ、話さなければ少しの間気にはするだろうが、すぐに「まあいいか」とけろっとテレビでも見出すには違いない。
いくらかお金を置いて、立ち上がる。

「ごめん兄さん、今度詳しく説明する」
「は? おい……」
「ふん、今日のところはこのくらいにしておいてやる。いつか決着をつけてやるから首を洗って待っていろサ、」
「ちょっと……騒がないの……」
「……」

店員さんに見送られながら店を後にした。
声をかけずともソニックは後ろをついてきて、店から出るとぴたりととなりにくっついて歩くので、ぐ、と距離をあけさせた。
じ、と斜め上から視線が刺さる。
太陽の光を反射する湖畔のように目がきらきらとしているのが、見なくてもわかる。

「おい、いうことを聞いてやったぞ」

この男はたぶんバカなんだろうなと思う。
いうことを聞くもなにも、ファミレスで暴れられたら当然困るし、兄に喧嘩を売られるのも面倒だ。

「当然のことをしただけでいちいち得意げにしないで、ぜんっぜん偉くないし……」
「……!」

私の言葉にソニックは少しの間だけ黙って、それからぱっと顔を上げた。
ちらりとみると、やはりやたらと自信と期待に溢れた眼差しが突き刺さった。

「迎えに来てやった」

頼んでいない。
それに、このストーカー忍者が来なけれはもう少し遊ぶつもりでいたのに。
うん? そういえばこの男、兄の名前を知っている風だった。どちらをストーカーしていたのか知らないが、兄妹水入らずのところに殺意ましましで入ってきておいて、迎えに来てやった、とは何事か。
もうため息しか出てこない。

「……いや、だからそんな得意げにされても」
「怪人に襲われでもしたらお前程度ではひとたまりもないだろうからな!」
「……」
「それなら、その荷物を持ってやる」
「いや、荷物って言ってもこれこんな小さいカバン……」
「よこせ」
「……」
「どうした、はやくしろ」
「はああぁー……」

「わかったわかった」と折れるしかない。
私は肩を落とせるだけ落とした後に、力なく手を伸ばす。
ほとんどはたくみたいにソニックの頭に手を伸ばして、数回撫でる。

「!」

最近家で飼っているでかい黒猫、もとい、音速のソニックはひどく幸せそうな表情を隠しもせずにおとなしく私に頭を撫でられていた。


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20161207:しばらく書く、パート1は10話くらいまで……よろしくお願いします、感想とかいただけたらがんばります……是非お願いします。
 
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