peace or peace(2)


なまえがリビングに戻ると、当然のようにキッチンを使っているソニックの姿が確認できた。

「何もないな」

冷蔵庫や、食器棚を覗いてそんなことを言う。
当然だろうが。なまえは思うが、そのまま何も返さず、コップだけ持ってパソコンに向かう。
パソコン机のすぐ隣のウォーターサーバーから水を汲んで、机の端の方へおいておく。
メールの確認と返信、そのまま今日の仕事に入る。

「……」

それがこれからの、なまえの予定であったのだが、それはメールを1通開いたところで中断される。
ぴたり。
椅子のすぐ後ろにくっついて、画面をのぞき込むソニックが、あまりにも鬱陶しい為、なまえは何の遠慮もなく、肘で振り払う。

「邪魔」
「そうか」

そうか、と言いつつ、理解した様子もまして反省した様子もなく、程なく同じように体を寄せてくる。
もう1度振り払おうと思うが、今度は振り上げた腕を絡め取られて動けなくなる。
ソニックは、そのままなまえの両腕を片腕で押さえて、ぐ、と余った方の手で、なまえの後頭部を押さえる。
ぎち、とまとめられた腕がおかしな音をたてた。
そこからなにをされるのかは大体気付いていて、なまえも、必死で抵抗するが、首にかかる力が強まるのを感じで、一瞬力を緩めてしまう。
この音速の男にはその一瞬で十分であったらしく、距離は一気にゼロになり、色気どころか雰囲気すらも皆無な口付け。

「っ」

言葉も息も奪われて。
が、おとなしくキスをさせてやる理由はない。なまえは唇に噛み付き、行為を中断させる。
なまえの口にも、ソニックの唇から出た血がついている。

「随分情熱的だな」
「……」

唇にそっと指先を持っていって傷口に触れる。
その血を眺めて。

「……悪くない」

なまえは思わずぞくりとする。
にい、とうっとりとした表情で笑うこの忍者はどこか頭のパーツがおかしいに違いない。
満足したのか一先ず離れて、どうしてかリビングで寛いでいた。
なまえは席を立って洗面所へ、二、三度口を濯いでからまた元の位置へと帰ってきた。
無理矢理抱かれなかっただけ、今日はましか。そんなふうに考えるが思わず息を吐きそうになって寒気がする。
そんなこと、ほっとするようなことではないのに。
目が行くのは最悪の事態ばかりだった。

「なまえ」

呼ばれているが、当然のように無視をする。
目すらも合わせることは無い。
いつものことである。
ソニックの方も、それを気にする様子はない。それどころか、先ほどの1件で上機嫌である。

「おい、なまえ」
「……やめろ」

くるりと、なまえの座る椅子を回して、自分の方を向かせた後に両手でなまえの顔を固定する。
眉間にシワを寄せて、全力で嫌がっているのだが、こんなことで効果があったなら、そもそもこんな事態になってはいないのだろう。
そんな抵抗はさっぱり無駄。

「なまえ」
「いい加減にはな、」

離せ、と続かなかったのは、また、今度は触れるだけのキスをされたからであった。
それでも放っておいたら永遠だったかもしれない、なまえは反射でその綺麗な顔を殴り飛ばす、唯でさえ拳が痛むのに、余計にだ。

「ふっ」

やっぱり笑っているのである。
なまえはソニックがゆっくりと立ち上がるのを感情のこもらない瞳で眺めて、すぐに目をそらす。
あまり見ていたいものではない。
意味がわからないからだ。
自分はこんなに手を傷めているというのに、まるで平気である幸せであるというように笑うのだ。

「続きはまた今度だ」
「もう来るな」
「なまえが俺に会いに来ると言うのなら考えよう」
「さっさと死んで欲しい」

口が悪い。
こんなキャラじゃないのにと嫌気が差すが、紛れもない本心であった。
どうしてこんなに心を傷めなければならないのか、考えても仕方が無いが、涙が出そうになる。

「なまえ」
「今度は何」

うっかり答えて、振り返ってしまう。

「いってくる」

ああ、あれは。
行ってきます、のキスだったのか。

「……」

死ねばいいのに。


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20160812:もうお気づきかも知れませんが一方通行な話も好きです。
 
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