21 守りたいものがある


一緒に行ってなにになる。
一番はじめに考えたのはそんなことだった。
そんなことだったけれど、行かないわけにはいかない。
なまえさんもそれをわかっているのか、僕に何か言ったりはしなかった。自転車に乗っている僕とほぼ同じ速度というのが、どうにも、やはり、S級なのだなという感じだけれど、なんとなく、嬉しかった。
待っていろとか、他のことをとか、そういうことを、彼女は言わないのだ。
相変わらず地面は揺れていて、悲鳴もあがっている。
その方向に二人で、なにを言うでもなく走る。
ちらりと彼女を盗み見るけれど、その両目は、僕に「好きだ」と言った時とはまた別の真剣さを湛えていて、ああ、あの時はあんなにも普通の女子高生に見えたけれど、なまえさんはS級のヒーローだ。
それにしても。
好きです、なんて。
ヒーロー協会も市民も実力を認める、ヒーロー。
なまえさん。
クールな印象だった彼女は、あんなにも熱い気持ちを持っているのだと知った。
けれど、今ゆっくり考えている暇はない。
だんだんと地面の揺れも大きくなり、悲鳴も近くなる。
怪人らしき何かの声も聞こえる。
複数だ。

「って!!」

がしゃあん、と走っていたすぐ前に、何かが転がってきた。
ガードレールにぶつかって、ガードレールが大きく歩道側に曲がってしまった。
飛んできたのは人で、僕は「大丈夫か!」なんて近寄るけれど、なまえさんは僕よりゆっくりと側に来て、時間差でこちらに飛んできた金属バットをキャッチして、ガードレールにめり込む人に投げていた。

「そんな怪我すると、ゼンコちゃんがまた悲しむよ」
「ん? その声は、なまえか?」

よく見れば、飛ばされてきた人には見覚えがある。
トレードマークが二つともどこかへいってしまっていたからわからなかったが、確かに、その制服姿や、顔なんかは、S級の金属バットさんのそれだった。
なまえさんが投げたバットを受け取ると、頭から血を流しながら立ち上がる。

「だ、大丈夫なのか?」
「ん? げえっ!!?」
「え?」
「あ、いや……」
「何だ……?」

C級など下手をしたら知られていないと思っていたけれど、思ったよりも反応が大きくてびっくりした。
僕と金属バットさんは何か接点があっただろうか。
僕はいまいちわからなくて、じっと金属バットさんをみていたが、金属バットさんはただただ居づらそうに視線を泳がした。
さらに首を傾げるしかないのだけれど、ずっとそうしていると、金属バットさんが「見てんじゃねー!」というので、「すまない」と慌てて謝った。

「バッドくん?」
「うっ! 悪い、い、いや、悪くねえだろ! んだコラァ!」
「……」
「に、睨む相手が違うだろうが!!!」

なまえさんはひとつ息を吐く。
ちらり、とこちらを一瞥した。
安全の確認、だろうか。

「で、状況は?」
「見ての通りだ、ナマズの怪人が暴れてんだよ」
「やけに多いね」
「俺が知るか、うるせえからぶっとばすぞ。妹と遊んでやる約束があんだからよ」
「はいはい」

ざ、と二人で歩き出す。
その先には、金属バットさんが言った、ナマズのような顔をもった怪人が暴れている。普通の一戸建てくらいの大きさで、僕らからしてみればかなり巨大で、それが、ここから確認できるだけでも10体は居る。
散らばって、被害が広まる前に。

「オラァ!!」

見ている間に、金属バットさんが一人。
はっとして金属バットさんを見ている間に、なまえさんが二人。
それぞれ怪人を倒していて、怪人たちの視線が彼女たちに集まる。
今、なら。
僕も被害の中心へ走り出す。
僕が今やることは怪人の前に立ちはだかることではない。
逃げ遅れた人を誘導したり、逃げられなくなってしまった人を助けたり。
怪人はきっと、金属バットさんとなまえさんが程なく倒してくれるはずだ。

「たすけて!」

声のする方を見ると、瓦礫に挟まってしまっている女性を見つけた。

「今助ける!!」

そちらに走り出すけれど、地面がひときわ大きく揺れる。
視界に入り込んできたのは怪人の足。

「だれもたすからねえよ〜」

もう一本の足が、僕の方へ向かってくる。
女性の悲鳴が聞こえる。
けれど。
きっと、大丈夫だ。
なんだろう。どうしてか、確信があるのだ。
僕は一切怯むことなくまっすぐに走る。
怪人の攻撃は、きっとこちらにはとどかない。
だってここには。

「あ、れ?」

怪人は、半分に切り裂かれて、ばたりと倒れる。
女性の側に駆け寄ると、上を見る。屋根を伝って戦うなまえさんと目が合う。
彼女は、どんな表情をしていいのかわからなかったようだけれど、僕が、ぐ、っと親指を立てて彼女に向けると、彼女は一瞬きょとんとした後に、それはそれは嬉しそうに笑った。
ああ、ほら。
やっぱり、思った通りの人だ。
暖かくて、優しい人だ。
どきどきと高鳴ってしまう胸は仕方がない。
もし、彼女が告白してくれたことが全部本当ならば、彼女は一体どんな気持ちで、今、戦っているのだろう。

「もう大丈夫だ!」

ほっとした表情の女性。
なまえさんは金属バットさんと戦っている。
一瞬、ほんとうに一瞬だけど、僕と彼女の間で何かがつながった気がした。金属バットさんとは連携が取れていて、なにが起きているのか僕じゃあいまいちわからないけれど、それでも、そんななまえさんと、一瞬心が通じ合った。
喜んでいる場合じゃない。
僕もがんばらないと。
だから。
がんばれ、なまえさん。


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20160627:卑屈にならないと思う。なれないと思う。
 
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