09 きみはよわくない



サイタマさんとジェノスくんとは、とうとうスーパーで会えばそれなりに話をして(すごい勢いで挨拶をして近づいてくる)、家に呼ばれ(何故かよく家電が壊れたりする絶対にあのサイボーグが何かしている)、私の家に遊びにくる(居留守を使おうとしたらサイタマさんに玄関を壊されそうになった)。
一度諦めたら最後、諦めたのも困っていたのもどうにも間違いだったらしい。
どうしてこうなったのだろう。
放っておいてはくれなそうだし、かといって私はあのプロポーズを忘れたわけではない。
どんどん馴染んでいる場合ではない。
それになんだか、最近ソニックの姿をみないせいで、冷蔵庫に作り置きしておいたものが妙に余る。
なにをしているんだろう。
彼の仕事については詳しく聞かないが、彼がそう簡単にどうにかなるとも思えない。
サイタマさんというヒーローが一瞬ぼやりと頭に浮かんで来たため、打ち消した。それは多いにあり得るし、ソニックが寝言で「オノレサイタマ」という呪文を唱えていたことを思うと、やはりなくはないのだけれど。
ならばまあ殺されることはないだろうし。
牢獄に捉えられているというのならば、納得ではあるけれど、飽きたら脱獄してくるだろう。
情報を掴むことができれば助けにいっても良いが……。

「……あー」

少し前から雨が降っている。
昼間から明かりをつけていないと、少し暗い。
リビングは明かりをつけているけれど、作業部屋の奥は真っ暗でなにも見えない。
ほんの少しだけ、怖くて、落ち着かない。

―ドンドンドン!

びくり、と体が震える。
どんなホラーかと思ったが、その音は扉を強くノックする音だ。
こんなに乱暴に扉を叩く人間を私は一人しか知らない。
私は急いで、玄関の鍵を開ける。
そしてそのまま扉を開けると、

「ソニ……う、ううん、細かいことはいいや、その姿だととりあえずシャワー?」
「いや、タオルだ。それから服と武器を貸してくれ。すぐに戻らなければならない場所がある」
「ええ? いや、う、うん。わかったから、ちょっと待って」
「……」

なぜかソニックはびしょぬれで、それでいて全裸だった。
加えてなにか急いでいるようなので、私も急いで彼を部屋に入れて、ぱたぱたと走り出す。
バスタオルを何枚かとって、とりあえずソニックの方に放り投げる。
部屋が汚れるからか玄関で突っ立っている。

「拭いたらリビング上がって来て、寒いでしょ」
「ああ」

時折この家に泊まって行くため服はある。
武器は、私のものしかないが、まあそれでよければ貸して上げることにしよう。
刀は、私の愛用のやつは貸せないけれど。他のものを貸しておくか。
ソニックは手早く服を着るが、髪から水が滴っている。

「なまえ」
「武器、こんなもんでいい? ていうか頭!」
「またすぐに出て行くから構わない」
「とりあえず、まだ武器仕込むでしょ。拭けるだけ拭くから」

比較的使われていないタオルをひったくって、一度彼の髪をほどき、できるだけ早く、丁寧に拭いて行く。ソニックはおかまいなしに動くせいで大分やりずらい。

「なまえ」
「ん?」
「久しぶりだな」
「うん、どうしてたの?」
「ふん。どうしていたと思う?」
「え、投獄でもされてたかなと」
「何故わかった……」
「当たりなんだね……」

まあ、それはいい。
元々私たちは詳しく素性を調べられれば何も言い逃れできない程度には犯罪者だ。
捕まることもあるだろう。

「大丈夫だった?」
「お前の方こそ、悩み事はどうなった」
「どうもこうも、相変わらず悩んでるけど。それより、武器とりにきたってことは丸腰で敵わなかったんだよね? ついていこうか?」
「いや。いい」
「ほんと?」
「ああ。―ついてきたいのか?」
「ぬれるから嫌だけど……」
「なら待っていろ」
「う、うん。ごはんあっためて待ってるよ」
「それでいい」

ソニックが武器を装備し終わるタイミングで髪も元通りに結い上げる。

「いってくる」
「いってらっしゃい」

再び玄関に向かいながらそう言葉を交わす。
そのまま外へ行くのかと思ったが、ソニックはくるりと振り返り、じっとこちらを見つめてきた。
ソニックのまだ少し冷たく湿った右手が私の頬に触れる。
少しどころではなく冷たい。
私は私に触れていない方の手もとって、反対側の頬の熱をあげることにする。

「……」

二人揃って何を言うでも無くしばらくそうしていた後に、どちらからともなく手を離す。
ソニックは安心したように笑って、少しだけ温かくなった手で私の頭を撫でた。
撫でていた手は、するりと後頭部へうつって、唐突にぐ、とソニックの方へ引き寄せられる。

「悪いな」

ちゅ、
額に一つキスを落として、名の通りかなり素早く雨の町中に消えて行った。

「……」

悪いな。か。
このタイミングで帰って来てくれたのが嬉しかったのも、本当は傍にいてほしかったのも、どうやら見透かされていたようだった。
けれど、なんだかすぐに帰ってくるような気がする。
またびしょぬれで帰ってくるだろうから、今度はお風呂とタオルと、料理を用意して待っていよう。


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2016/1/5:有利すぎて逆に不利
 
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