18  公表


彼女はとても強いヒーローだ。
そのワイヤーは実際強力で、一瞬で怪人を片付ける、仕事の速さも魅力的。最近だとシルバーファングの道場へ出入りしたり、アトミック侍の道場へ通ったりと、自分を高めることを忘れない。同級生の金属バットはなんの取り柄も無いようなガキだが、彼女はすばらしい。
丁度今、仕事のパートナーを探していたところだ。
仕事といっても、ヒーローのではない。
下校中のなまえを捕まえて、甘いものを奢るからと引き止めた。

「テレビの仕事に興味はあるかい?」

僕は笑っていた。
彼女も笑っているが、僕の笑顔とは少し違う。

「ありません」
「そうか。なら、雑誌とかは?」
「ありえません」

なるほど、と僕は言う。

「仕事は一緒にしない、というわけだね」
「ヒーローとしての、仕事ならご一緒します」
「なら決まりだな」
「え?」
「モデルの仕事だ」
「無理です」
「できるさ」
「わかりました、言い方を変えます。嫌です」
「なら僕も言い方を変えよう。僕は今とても困っていてね、是非キミに助けてもらいたいんだ。頼むよ」
「…………」
「人助け、だよ」
「必要ないですよね?」
「確かに、キミが仕事を手伝ってくれなくても人は死なないけれど。僕がとても困る事になるんだ。僕一人なら、助ける気にもならないと?」
「……」
「ん?」
「わかりましたよ! ただし、顔は出しませんからね!」
「ああ。それでいいよ」

僕は笑っている。
なまえは、諦めたように息を吐いて頭を抱えていた。道中。そんな彼女のことをいろいろと聞いた。彼女は、包み隠さずすべてを話してくれたわけでもないだろうし、話してくれた話の中には本当ではないことも混ざっていた。

「何故強くなるのか? ですか?」
「ああ」
「驚いた。貴方がそんなことを聞くんですね」
「ん、そうかい? でも僕は、キミに興味があってね。キミも聞きたい事があったら聞いてくれて構わないよ」
「お気遣い無く……」

曰く、「強い方がいいから」だそうだ。
その方が便利だし、なにより怪人と遭遇したときに「怪人に出会った」たということで自分の時間を大きく裂かれるのも嫌だし、誰かに助けてもらうのを待つ、というのも性に合わないと言っていた。
彼女らしいが、きっとそれが全てではないのだ。
それはわかったが、これ以上は語りたくない、と表情に出していたので、聞かないでおいてあげることにした。
テレビ局にするりと入って、スタジオに入ると、なまえは僕から離れればいいのか近付けばいいのかわからないようで、遠ざかったり近くに来たりしておろおろとしていた。慣れない場所で緊張しているらしい。
この短時間で大分彼女のことがわかったけれど、きっと、頼まれたからには全うしなければ、なんて考えているのだろう。

「で、何をお手伝いしたらいいんで?」
「そうだな。まずそのサングラスをとってもらおうか」
「顔は出さないお約束です」
「僕の隣でその格好は浮くとおもうけど……」
「顔がバレて面倒事が起きるくらいならばなんかダサイって広まった方が全然ましです。あと顔は出さなくて良いというお話でした」
「ふう、しかたないな。わかったよ。ほら、こっちだ」
「……」

なまえはマフラーをいつもより厚めに首に巻いて、サングラスの位置を直していた。
今日は雑誌の取材を受けているが、ヒーロー同士の対談形式のものにしたいと言うので、彼女に声をかけた。
下手なヒーローを呼ばれたのでは面倒でならない。
なまえは高校生ではあるものの、空気を読もうと努めるし、勝手な行動もしない。相手をたてることも知っているようだし、仕事の相棒としてこれ以上の適任はいない。
もしかしたらあの小煩いリーゼントがついてくるかと思ったが、一人の時に声をかけられたのも大きい。

「?」
「座ってくれ。僕と少し話をしてくれたらそれでいい」
「ああ、はい、そうじゃなくて……」
「なんだい?」
「今なにか、変な音が」

がしゃあん

音と一緒に、爆風。
扉はどこかへ吹き飛んで、ほどなく強い風が吹き込む。僕となまえは扉から離れた場所に居たからいいが、扉の近くに居た人たちはバランスを崩して、扉と一緒に飛ばされている。
確認するより速く、なまえは2、3人を助けていて、僕もそれに倣う。
襲撃。
怪人だろうか。

「見つけたぞアマイマスク! ついにお前への恨みをはらす時が来た! そこでおとなしくしていろ、殺してやる!」

狙いは僕らしい。人間に恨みを買うことならばまああるが、怪人を取り逃がした覚えはない。ならば彼は。否、今はそんなことはどちらでも構わない。
周囲のスタッフには目もくれない。
なまえが小さな声で言う。

「めちゃくちゃ怒ってますよ。何したんですか?」
「さあ。身に覚えが無いね」
「でも、怒ってますよ、あの人」
「そうだね。なまえ、戦えるかい?」
「はい、あれだったらその辺で休んでいていただいても大丈夫かと」

これは油断ではない。
彼女は怪人から目を離していないし、まっすぐに前を見据えている。ぞくぞくするくらいに冷静な瞳だ。
先ほどまで知らない場所を怖がったり、いやなものを嫌だと言ったり、僕の口車にのせられたりとまったくもってただの女子高生であったというのに、悪を目の前にした途端にヒーローの顔になる。
お言葉に甘えて僕は高みの見物と洒落込むとしよう。
案の定、怪人は程なくなまえが片付けた。
スタジオの入り口がすっかり赤く染まってしまって、彼女は少し申し訳なさそうにしたけれど、なんてことはない、下手をしたらテレビ局がのっとられていたかもしれない事態を一瞬で収集した、ただのヒーローだ。

「す、すげえ!」
「おい! カメラカメラ!!!」
「あ、いや、カメラはちょっと」

仕事どころではなくなってしまった。
まあ、今日は珍しくこれ以外の予定はない。
僕はそっと彼女の近くへ行って、小さく「ご苦労様」と言った。「大したことじゃ、ない、ん、ですけどねえ」なんて困っている。
さりげなく僕は彼女の退路を絶ったのだが、目の前の人の対応に追われて気付いていないらしい。
成り行きを見守っていると、一人の女性スタッフが自分よりも背の低い彼女に駆け寄り、涙目で言った。

「ありがとう!」

なまえは一瞬固まった後に、そっと自らのサングラスを取ると、へらりと笑った。

「なんてこと、ありません。怪我がなくてよかった」

顔を隠すなんて、きっと彼女には向いていなかったのだろう。
どうやらもとより人からの期待には応えたくなる性格らしい。真面目で、愚直で、けれど大勢を相手にするというのは得意ではなく、それでも褒められたりするのは嬉しいらしい。なんとも、ただの女子高生だ。

「さ、片付けたら仕事に戻ろうか」

少し体を動かして、人と交流をしたら緊張も解けたらしく、彼女は頼んだ仕事もしっかりとこなしてくれた。
僕は仕事が終わると、明らかに嫌そうにする彼女の携帯電話の番号を聞き出し丁重に家に送り届けた。
僕が「お疲れ様」とメールを入れると、「もう二度としません、お疲れ様でした」と返信が返ってきた。
また何かうまいことを言って仕事に誘ってやろうと目論んでいたが、一週間後、突如彼女からの着信。「もしもし!」聞こえる声は怒っているようだった。

「顔、出さない、って、言った、のに! なんですかこれ!! 雑誌!!! 表紙飾ってる!!!! シンジラレナイ!!!!!」
「はははは!」
「何笑ってんですか!! 平和に生きてたのに!!」

あの時、写真を撮られていたようだ。
見出しは「S級ヒーロー、なまえの素顔!」ありきたりだが、確かに、よく売れそうだ。


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20160626:そろそろ無免さんを出したい
 
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