16 どうしても欲しい


珍しい場所で、なまえを見かけた。
ほんの気まぐれでふらりと入ったゲームセンターで、なまえが財布を握りしめてクレーンゲームの前で固まっている。
なにか欲しいものでもあるのだろうか。
後ろからそっと近付くと、俺にとっては都合の悪いものが見えた。
C級1位、無免ライダーのフィギュア。

「ん? あ、バッドくんか……」
「おう……、なにしてんだこんなとこで……」
「何って」

なまえは、クレーンゲームの中のフィギュアを指差す。
無免ライダー。

「ああ……」
「バッドくん」
「……」
「得意? これ」
「…………」
「とれない? こういうのって皆5千円くらい戦ってとるんだよね? 私もう2千円くらい戦ってるんだけど、全然とれるイメージが湧かなくて。バッドくん、コツとか知らない?」
「いや、お前…………」

隣に金属バッドフィギュアがあるがそれについてのコメントはないのか。

「無免ライダーの、フィギュアが欲しいんだな?」
「うん、そう」
「ちなみにその、隣の……」
「隣? ああ、バッドくんのやつよくできてるね」
「もう一度聞くぞ」
「うん」
「無免ライダーの、フィギュアが欲しいんだな?」
「? だってバッドくんは毎日見れるし……」
「……好きなのか」
「無免ライダーさん? うん、この人ほんと好き」

こんな形で、こいつの好きなヒーローを知りたくはなかった。
地面にハンマーで打ち付けられているようだ。
がつんがつんと沈んで行く。
底が全然見えない。

「最近ちょっとグッズ集めとまんなくて……、お願いです取ってくれませんか。それでもし私にくれたらこの間もらった発売前の私のフィギュアと交換しよう」
「お前、今さっき自分がなに言ったか覚えてっか?」
「それは冗談としても、なんか奢るし、なんか好きな子とかいるなら二人きりになれるように協力とかしてもいいし」
「これ以上俺をえぐるのはやめろ……!」
「え、ごめん、でもなんでもいいからこれ欲しい。やってもらえないなら引き続きがんばるよ……」
「馬鹿野郎! やってやろーじゃねえか!!!!!」
「おー!!」

さっきはああ言ったが。
もちろんこいつのフィギュアならば俺は欲しい。
加えて、何かを奢ってもらえるということはつまりそういうことだ。
一番最後のがどうにも心を抉って来たが、わかっていたことなのでおいておく。知っている。最近はすっかり友人を飛び越えて親友になってしまって、すっかり気の許せる相手になってしまっている。
とてもじゃあないが恋愛対象としては見られていない。
俺に大しては、死ぬ程残酷な奴である。
好きなんだけどな! それでも!! 
涙目になりながら、クレーンゲーム―、否、無免ライダーのフィギュアと対峙する。
絶対勝つ!

「ちっくしょおおおおオ!」
「いやあああ、おしい!」

その光景は、あまりに異常だった。
ゲームセンターは薄暗いし、俺達は制服だったから、周りにヒーローだとばれることはなく。それは救いではあったけれど。冷静になって考えればS級ヒーロー二人が、C級ヒーローのフィギュアを入手する為に体を張っている。
ただただ、異常な盛り上がり方をしていた。

「いけるいける、次は絶対行ける!」
「いけるじゃねえだろうが、お気楽なこと言ってんな! いくしかねえんだよ!!!!」

俺達はやはり、気は合うのに。
気が合うから、こんなにも友達なのか……。

「え、え、え、え……!!」
「おおおらあああああああああ!! みたかこらあああああ!」

がこん。
それは地味だが確実な勝利の音。

「やったー! バッドくんほんとサイコーーー!」
「っっしゃあああああ!」

俺達があまりに必死なので、ギャラリーが集まって、そしてそのギャラリー達まで大きく湧く。
拍手喝采が巻き起こり、中心の俺達は飛び跳ねて喜んでいる。
なまえは賞品の取り出し口からフィギュアを取り出し、嬉しさのあまり泣いている。俺は泣いてない。涙目でもない。断じて無い。
なまえは俺ではなくてその賞品に頬ずりしながら言うのだ。

「ありがとう! ほんとうにありがとう! 家宝にする!」
「おう! もっとありがたがりやがれ!」
「神様! バッド様! ありがとう! ほんと好き!」
「へ」
「いやー、もうほんとありがとう! ああーありがとう! やっばいもうありがとうしか言うことない」

わかっていても。
そんなことを言われては期待してしまう。
でも、いつもと変わらないなまえを見ていると、やはり、そうではないのだと突きつけられる。
なまえのこれは、憧れだろうか。
それとも。

「今日は遅いし帰ろうか。あ、お礼に家まで送ろうか?」
「送らせられるわけねーだろ!」
「あはは、まあ、それは冗談として。帰ろうよ」
「………おう」
「ほんとにありがとう!」
「もういいっての」

俺がなまえに抱く気持ちと、同じものなのだろうか。
一体何がいいというのだろう。
なまえは、何を見ているのだろう。
かなり複雑な気持ちのまま、なまえの横を歩く。

「そのかわり、ちゃんとなんか奢れよ」
「うん」
「あと」
「ん?」

フィギュア持ってこいよ。
なんて言えたら、良かったのかもしれない。


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20160619:あれほんとにとれるんですか? ほんとに?
 
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