14 すごいひと登場


「なまえ!!! フブキ組に入りなさい!!!」
「あ、ついに自宅まで突き止めたんですねフブキさん………」
「ふふん、フブキ組の情報網はすごいのよ?」
「ちょ、すいません、フブキさんちょっと落ち着いてもらっていいですか? 出かける用意してるのでもうちょっと待ってて下さい」
「なによ、まだ寝てたの? 3分ね」
「はい」

◇ ◇ ◇

「なまえ!!!? ちょっと遅いんじゃないの!!? ちょっと、なまえ!!!」
「ごめんなさいねフブキさん……、うちの娘……、裏口からどこか行っちゃったわ」
「え!!!!?」
「折角きてもらったし、良かったらお茶でも飲んでいく?」
「(ま、また逃げられた……!!!)」

◇ ◇ ◇

ついに自宅まで来るとは。
恐ろしい信念だ。
しかし、フブキさんはB級1位ということに拘っているのに、私を組に入れてもいいのだろうか。入るくらいなら別にどこに所属したって構わないのだけれど。
でも、なんていうか。
やっぱり。そういうのはあの人のイメージと違うし、私自身もそれはちょっと、という感じだ。
私は彼のような、ヒーローらしいヒーローになりたい。全部を助けることはできないけれど(そもそも、だからこうたくさんヒーローが必要なんだろうし)、それでも、やっぱり強いヒーローでありたい。
どんどん、普通のかわいい女子ではなくなってしまっているけれど。
憧れたものがある。
そんなことを考えていると、ポケットの携帯電話が震える。
ヒーロー協会からの着信であった。

「もしもし、なまえです」
「……なまえさん、至急向かってほしい場所があるんですが」
「わかりました。すぐ、向かいます、どこですか?」
「場所は―」

通話を切ると、すぐに向かう。
地面を蹴る力は増していて、日々のトレーニングの成果が少しだけ伺えた。まだまだ師匠には遠く及ばなくても、スピードも少しずつ上がっている。
真っすぐに、Z市のヒーロー協会支部へ。

◇ ◇ ◇

「あれ、こんにちは。バングさん」
「…………そうじゃな。お前さんは来るだろうと思っとったわ」
「えーっと、バングさんだけですか?」
「ああ、しかしほれ、もう一人」

ブウン、とヒーロー協会の扉が自動で開く。
私が振り返ると、そこに立っていたのは。

「ほう…、キミがジェノス君か」

最近S級ヒーローになったサイボーグの青年だ。

「ワシはバングという者じゃ」
「あ、私はなまえです」

ついでに名乗ると、バングさんがさらに追加で。

「よろしこ」

と挨拶しておいてくれた。
……、んん、まあ、突っ込むまい。以外と天然なのかお茶目なのかわからない人だというのはもうわかっている。
ジェノスさんとバングさんの話によると、今回の問題は災害レベル”竜”であり、最強にやっかいな依頼であるらしい。なにかと言えば、『隕石』がZ市向かって落ちて来ているんだとか。
隕石か。
隕石。
話の途中だが外に出て空を見上げる。
確かに、なにか太陽でも月でもないものがだんだん大きくこちらへ向かって。これは笑えない。ちょっとだけ強くなったことを喜んでいたけれど、これ、私では多分、なんともできないんじゃないのか。
せめてもう少し威力が減ってくれたのなら、どうにかなったかも知れないけれど。
武術も剣術も半端な私がS級になれたのは、ワイヤーの扱いが多少うまかったからであって、とてもじゃあないが拳でこれを砕くなんて想像も、ん?

「あれは、はじめて見るけど、メタルナイトさん、かな?」

それから、ジェノスさんも居る。
何か話しているようだけれど、程なくメタルナイトさんがミサイルを発射したので、私もそれをじっと眺める。
確かに強力そうな武器だけれど、なんとかなるのか?
派手に爆風が広がるが、それの中からは、やはり。

「あれでもだめ、か」

ジェノスさんもなにかエネルギー派のようなものを発射しているが、どうなのだろう。
それにしたって、サイボーグというのをはじめて見たけれど、いろいろと兵器を内蔵できるというのは便利かもしれない。
人間が持てる武器の量には制限があるし、仕込んでおけばもっといけるが、今全力でがんばったとしても、せいぜい半径50メートルくらいしかワイヤーは届かない。範囲で言えば、一辺の真ん中に私として、50メートルの正方形がぎりぎりできるかできないか、だろうか。
なんて、今攻撃範囲の計算をして現実逃避している場合ではない。
私もバングさんの傍へ行く。
死ぬにしても助かるにしても、できることをやるしかない。
動けなくなっているジェノスさんをちらりと見る。
彼は逃げろ、と言うが。
そこへ。

「俺はヒーローをやっている者だ」

彼は。
確か、確かC級ヒーローのサイタマさん、だったはず。

「俺の町に」

いやいや。
本当に?

「落ちてんじゃ」

身一つで?
今サイボーグの便利さについて考えた所なのに?
拳一発で?
そんなことが。

「ねえ!!!」

実際目の前で、隕石は砕け散る。

「こんな人も居るんだな……」

ぼうっとしている場合じゃない。
威力も落ちている、これなら、私の攻撃も通る。

「バングさん、私こっち側50メートルくらいなんとかします」
「おう、任せたぞ」

立っている土俵が違う。
そんな風に感じずにはいられない。
話をしたら、どんなトレーニングをしたのかくらい教えてくれたりするのだろうか? 私がそんなことを聞いたら失礼にあたるのだろうか。
あんなことをされた後では私が何をしたってしかたがない、宣言通り町の一区画守った程度では何もならない。隕石を更に砕いて砂にしたから、なんだというのだ。
ほんの少し悔しい。
この危機を一撃で打破するなんて。
でも、どうにも私の顔は笑っている気がする。
ほんっとに、すごい。


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20160619:すごい人登場。
 
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