11 ファン


下校中の商店街に、貴方を見つける。

「無免ライダー参上!」

相変わらずに、彼はヒーローだ。
私は下校中に無免ライダーさんを見かけては、声はかけられない。
例えば、例えばだけれど。ヒーローになってすぐならば声もかけられた。
「貴方に憧れてヒーローになった」とか。
「貴方のようなヒーローになりたい」とか。
「応援しています」とか。何か飲み物を差し入れたりとか、ファンレターなんかを渡したりとか。一緒に写真をとってもらったりとか、サインをもらったりとか。とか。とか……。
今やったら嫌味だろう。
惜しいことをした。後悔は役に立たない。
けど、やっぱり考える。
もしかしたら。
勢いに任せたら言えたかもしれなかったのに。
「好きです」とか。
「貴方を見ていると、本当に、不思議な気持ちになるんです」とか。
「なんでもなかったただそこを通り過ぎる人たちが、とても尊いものに見えたり。私に向けられたわけでもないような平和な笑顔を見ると嬉しかったり。ヒーローになって、いろんな人の手助けをしていると、なんだか、もっと強くならなきゃなんて思うんです」なんて。
そんな話。
あの人は、聞いてくれるのだろうか。
相変わらず老人から子供まで幅広い層の人に人気みたいだ。私はなにを遠巻きに見ているんだか。
あ、女子高生が手を振っている。うぐぐ。かわいい。私もやればできるだろうか。
何故だか悔しい思いをする。
いつだか親友に言われた「その格好、ダサくねえか?」という言葉が脳を揺らす。いやそんな気はしたんだけれど、自分の生活を天秤にかけたり、恥ずかしいとか少し思ったり、悩んでいる内にスタイルが確立されてしまって今更変えられない、なんてちっとも笑えないが、本当のことだ。でも、割と気に入っているのも本当だ。師匠がくれた布は以外と便利だし、丈夫だ。サングラスも何だかよくわからない感じに見えて割と好きだ。ただ女子高生的にはアリエナイと自負もあったりするだけで。
だから特に、スタイルを変えたりはしないのだけれど。
顔も、一部S級の人たちやヒーロー協会の人、それから学校の子たちも知っている。必死に隠しているわけではないので、普通に歩いていても声をかけられるようにまで有名になってしまったのなら、また考えようと思う。
そっとその場を去ると、まだ少しどきどきと胸のあたりがうるさい。
ぐ、と貧相な胸を押さえてみるが、何も変わらない。こんなこと。まるで女子高生みたいだ。
私はただのファンで、ただの同業者。お互いの顔も知らない。
ああ。もう。なんなんだ。うるさいったら。
見かけるだけでこんなのでは、話しができるわけもない。なんかこう文通くらいからはじめられないだろうか。
文……?
ファンレター……?
匿名で出すくらいならバレないかなあ……しかし今更なにを……? S級になってしまったことは誇らしいことではあるものの完全に足かせになってしまっている。
バレなければいいが、バレたら多分。世間はあまりよく思わないはず。下手に煽ってるだのなんだのなんてマスコミに騒がれたくはないし、私だけじゃなくて、無免さんにも迷惑がかかる……。嘘は、うん、よくない。

「あ」

そして見かけたのは、一枚のポスター。
交通安全のそのポスターには、無免ライダーさんが爽やかな笑顔と、そのすぐ横のショーケースには同じく無免ライダーさんのフィギュア。
地域ぐるみで無免ライダーさんを応援していくスタイル、すごくいいと思う。
私も是非是非売り上げに貢献したり実際に無免ライダーさんは本当にかっこいいということを皆に広めたい。
あ、でも、あんまり女性ファンがつくのは勝手に複雑な気分に……、いやそれは私が勝手に思っていることだし、私は無免ライダーさんが幸せならばなんでもいいのだ。うん。そう。

「すいません、このフィギュアと、あと、えーっと、ポスター貰えないですかね?」
「いらっしゃい! なんだお嬢ちゃん、無免ライダーのファンか?」
「はい、とても、好きなんです」
「そうかそうか! おじちゃんは最近流行のなまえのフィギュアなんかも出ないかなーって思ってるんだけどなー」
「へ」
「ん? 知らないかい?」
「あ、いえいえ、知ってますよ、S級、の」
「そうそう! 俺もたまにみかけるんだけど、今時クールでかっこいいヒーローだよなあ」

クール。
かっこいい。
それは同じ意味ではないか。
いや、今はそれはいい。
そういえば、私のことをまったく知らない人に、私の評価を聞くのははじめてだ。手探りで、自らの恋の為にヒーローをはじめた不純な私は、他の人にはどう見えているのだろう。

「クール、ですか?」
「おう最高にクールだぜ! 怪人もぱっと倒しちまうし、それが終わったら人ごみに消えて行く。それにさあ! 彼女は強いだけじゃないだろ? 今怪人を退治してたと思ったら、次はそのへんの横断歩道でばあちゃん助けてたりするんだよ。あと、落ちてるゴミ拾ってたりとか。今時あんなヒーローなかなかいないって! 俺の知る限りじゃ無免ライダーとなまえくらいのもんかなあ!」
「え、」
「ん?」
「あ、いえ、その……、えっと、おじさん、フィギュア、やっぱり、二つ下さい。あと、そこのヒーローカード箱で」
「んん? おう、まいど! で、あとポスターだっけか。無免ライダー好きの縁ってことでおまけしてやるよ! 普段は軽々しく人にやったりしないんだけどな! みんなには内緒だぞ!」

大きな紙袋に全部まとめてくれた。
それを受け取ると、おじさんはにか、と笑った。

「ありがとうな! よかったらまた無免ライダーの話しに来てくれ!」
「あ、あの、はい。えーっと、その、私もまた、おじさんの推しヒーローについて聞きたいです」
「おう! ありがとうございました! また来てくれな!」
「はい」

……。
…………。
ほんと?

「〜〜〜〜っ!!」

声を押し殺す。
そしてどうにか頭を下げて店を出る。
きっと、前から来る人は見えていただろう。両手の拳をにぎってぐっと胸のあたりに近づける。
感情が溢れてくるガッツポーズ。
ああ、なんで。
世間の評判なんてどうでもよくて。それなのに。それなのに。

「無免ライダーとなまえ」

あの人はそう言った。
無免ライダーと。無免ライダーと。無免ライダーと。無免ライダーと!!
無免ライダーと私。
あの人に、私は近づけていると思っていいだろうか。
理想のヒーローに。

「やっっっったぁ〜………」

小さな声が、思わず溢れ出す。拳をさらに強く握る。
ああー。あああー! もう!!
「無免ライダーとなまえ」だなんて、たったこれだけのことがたまらなく嬉しい。
私は彼と同じヒーローで、他の人たちから見たら、私の心のことなんて、全く関係ないんだなあ。
うん。がんばろ。


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20160618:30話くらいを目標にしてる
 
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