09 三人目の先生


平日の昼間。
最近すっかりなまえとの時間になり、最高に楽しみにしているこの時間。
昼飯も食べ終わりそろそろ教室に戻ろうか、それとも天気もいいしサボろうかという時である。
ヒーロー協会からの呼び出しだった。

「金属バットくん、君に頼みたい仕事があるのだが……」
「今か?」
「そうだ。ついでに、近くにS級のなまえさんも居たら一緒にヒーロー協会まで来てくれるよう頼んでみてくれ」

ついでになまえも。
その軽さに少し苛立つが、そんなことは、今はいい。
正面に座るなまえにも、これは聞こえていたはずである。

「だってよ、返事しちまっていいか?」
「ん、おっけー」

なまえも同じような軽さを持って指で小さく丸を作った。
それならばと制服についたホコリを払ったりしている。
するりとオレンジの布を首に巻き、サングラスをかける。相変わらずそれだけは良い趣味であるとは言えなかった。
布だけならば、空の色によくあっていて綺麗と言えなくもないが。その、目からビームでも出そうなギラギラとしたサングラスが最強に不調和である。

「……」
「ん?」

はじめこそ、それはダサくないかと言ったりしていたが、サングラスの種類が数種増えただけで、基本スタイルは変化しなかった。
俺はもう突っ込むのをやめた。
まあ、近寄り難い感じが出ているのは、俺にとって悪くないことだ。

「いや、行くか」

うん、と、なまえは言うが。
それだけ顔を隠されてしまうともう笑っているんだかそうでないんだかさっぱりわからなかった。

◇ ◇ ◇

なまえとヒーロー協会へ赴くのはこれが初めてではない。
なまえはいつも、協会に来るときょろきょろと周りを見回して、落ち着かない様子である。
落ち着かない、と言うよりは、なにかに期待している様子、何かを探しているような、そんな様子だ。
いつだか言っていた、あこがれのヒーローを探しているのだろう。

「なあ、その憧れてるヒーローってどんなやつだよ」
「え、うーん。なんだろ。強くないけどすごい強いしかっこいいっていうか。そんな感じ」
「強くないってなんだよ。そんなんで意味あんのか?」
「意味は、あるね」
「まあ確かに、それが全部じゃねえと思うけどよー、S級じゃないってことか?」
「S級だったら最近はバングさんと遊んでもらってる」
「は? シルバーファング? なんでだよ」
「道端で声かけてもらって」
「ナンパじゃねえかあのクソジジイ!!!」
「なんてことを……いい人だよ、夕飯ごちそうになったりするし」
「最近ちょっと付き合い悪いと思ったらそういうことか!」
「ごめーんねって」
「許すかボケ!」

理由は隠したがるし、楽しそうに断るので何かと思えばシルバーファングである。
なんてことだ。
ちらりと、なまえを盗み見る。

「……」
「……」

相変わらずきょろきょろとしている。
やはり、俺のことはあまり気にならないと言うか、どんどん友人の道を突き進んでいるこのままでは非常にまずい。
憧れのヒーローがタツマキではなかったことを残念がっている場合ではない。
どうするべきか。

「転ぶなよ」
「うん、大丈夫」

俺はこいつの兄貴か!?
なまえとは逆方向を見ながら頭を抱えた。
そのせいで、気づくことが出来なかった。
わずか2秒後。

「わっ!?」
「おっと」

衝突事故。
その曲がり角から歩いてきた男となまえは見事にぶつかった。
見ていれば、なまえを支えていたのは俺だっただろうに。なんでこの男なのか。

「ん? お前は、近頃話題の……なまえ、だったか」

男は、弾き飛ばしそうになったなまえを支えながら言う。
なまえはと言えば、何故か楽しそうにしながら声の方を見上げる。

「あ! えーっと、はじめまして。そういう貴方はアトミック侍さん。あ、あと助けていただいてありがとうございます」
「おう、はじめまして。なに、大したことじゃねえさ」

ぶつかった相手は、アトミック侍。今日は弟子を連れていないらしかった。
こいつも呼ばれていたのか。
と言うか、さっきからぶつかったなまえを支えているのはいいが、いい加減に離しやがれ。
なまえも、礼はいいから離れろバカヤロー。

「あっ!? おい!!!」

思わず声を上げる。
アトミック侍はなまえを離したかと思えばするりとその小さくて白い手をとって、じっと観察したり触ったりしている。
なんてことしやがる。
俺だってまだ手を触ったことなんかないってのに。

「ほう、この手は……。剣の心得があるのか?」
「え、はい、少しですが」
「師は?」
「すみません、ちょっと言えなくて。でもすごく強いひとですよ」

こいつら俺の制止などまるで聞いちゃいない。

「ほほう、そいつは面白いな。どうだ? 今度俺の道場に来てみるか」
「! 本当ですか!」
「ああ。なんなら手ほどきをしてやってもいい」
「やったー! ありがとうございます! いつなら行ってもいいですか?」
「はは、そうだな……。お、お前も来るか? 金属バット」
「どうでもいいから手ェ離せコラァ!」

もしかして、なまえの探していたヒーローはこいつなのだろうか。
明日にでも、聞いてみることにしよう。
それにしたって今日はなにやらついていない。
このあとも、おいしいところはしっかりアトミック侍が持っていき、俺は頭を抱えていたし、なまえはすっかりアトミック侍になついていた。
ここで気付きたくないことに気付く。
おそらくなまえは、俺に友人以上の興味はない。
なんとも、泣ける話だ。


----
20160616:小説を書きたくなる周期に突入中。
 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -