◇短編 | ナノ



異性というタブー

「はい、あーん」

口を開きたくない。
愛してやまない恋人も、学校では後輩にすり替わる。
ここはランチタイムで賑やかな学生食堂で、一般常識では少なくとも同性の後輩は先輩に対してそんな態度を取るべきではない。

宍戸は怒りに震えた拳をハッと広げて、ふと逡巡した。


あぁ。
俺、効き手を突き指したんだった。


朝練習中の出来事。
保健室を出たあと、あれだけ慌てふためいていた後輩は心配そうな顔を全部引っ込めていた。
もしかして、助けているつもり、とか。
宍戸は素直に口を開きかけた。

『はい。あげる、宍戸』

耳にエコーする数分前の声。
口に広がるミントガムの味。

違う。
こいつは真似をしている。


「女と同じ手使うなよ。激ダサ」

それでも宍戸は、ぱくりとフォークに噛みつくのだった。




End.





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