◇短編 | ナノ



愛が生まれた日 跡部編

アーン?
何してやがる、宍戸。


昼休み。
部室のロッカー前に立ち、首元で何かごそごそ探っている奴を見つけた。
呼び掛けるとひどく慌てた様子で俺の方に顔を向けた。その際、なぜかロッカーの方を向いたまま。
かなりビビっていたくせに、なんだ跡部かよクソ、などと悪態をついてくる。

俺様にクソだと?
おまえは相変わらず口の悪い奴だな。
少し腹の立つ態度だが、今日は大人になってやった。

何をしている、宍戸。

そうもう一度聞くと、なんでもねーよ、テメーにゃ関係ねぇ、と言う。

……あぁん?…偉そうじゃねぇか、宍戸の分際で。
この俺を邪険に扱うとはフザけた野郎だ!
こうなりゃ何が何でも暴いてやるぜ…テメーの下らねぇ企みをな!
まずは不自然に振り向こうとしないおまえがそこに隠しているものを見せてもらおうか!?

ぐい、と肩を掴むと、不意打ちだったのか、宍戸の身体は簡単に反転した。
振り返った宍戸はあからさまに大慌てで、気のせいか顔も少し赤くさせた。
…いいや、気のせいじゃあねぇな。
顔が赤いぜ?宍戸。
俺様のインサイトはテメーごときじゃごまかせねーよ。ハッ!
恥ずかしいんだろ?普段だらしないくせに、きちんとネクタイしてるところを俺に見られて。いいザマだぜ。

ま、今日3年は高等部見学会があるからそうせざるを得ないな。
さすがの宍戸も礼儀は弁えていたか。

そう褒めてやったら、意外な反応を返された。

…何故安心したような顔をする?

意味が分からねぇ。
おまえが慌てていた原因はこれではなくて、別にあるのか……?
しかし、ネクタイ以外おかしなところは見当たらない。
(見落とすようなヘマはしねぇ)
だとすると、だ。
こいつのネクタイには、何か秘密がある…?
改めて宍戸のネクタイを見る。
そして。


…あぁ。


―――俺はすべてに気がついた。



………ネクタイ、借りただろう?
犬みたいにおまえの周りをじゃれつく、あの後輩に。
だが、それも大したことじゃない。

俺が見てしまったのものは。
俺が知ってしまった秘密は。


おまえのその、赤い顔。




End.





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