◇短編 | ナノ



愛が生まれた日 忍足編

今な、部活終わってな、更衣室で着替えてんねやけど……何をぎこちなさそうにしとるん?こいつら。
いつものベッタリはどこ行ったん?


まぁ俺も今おかしなってる二人見るまで忘れとったけど、確かに今日、ちょっとした事件はあったな。ダブルスの練習の時やったんけど。
ほら、宍戸はダブルスの経験浅いから。鳳と組むこと決まって日も浅いし、残された短い時間で完成させんといかんから、最近はずうっと俺と岳人で相手してやって練習しててん。
あいつらもなかなか息合ってきてて、俺もがっくんと絆深めんと、とか思うくらいやった。
けど。
今日は息合ってるとは言えんなぁ。

例によって宍戸がまた無茶してん。
鳳が取るべき球やったけど、宍戸の足なら追いつけそう、っちゅうとこにボールが弾んだ。
あ!って思たときにはもう激突してて、宍戸が鳳の下敷きになって転んだ。
「いってー、バカ!重い!!」とか「すいません、大丈夫ですか宍戸さん!」とか言い合って、慌てて鳳が宍戸の肩越しに手ついて、身体を少し浮かせたんや。
そしたら急に宍戸がビクッてなって、岳人以外は気付いたくらいに動揺した。
鳳も今の体勢が男女やったら(鳳には宍戸やったら、てとこか)ヤバイもんてようやっと気付いて、ハッとして頬染めた。
俺は二人が互いに想いあってるの、感づいてたで?
あー、これ…意識してしまったなぁ。
とか考えながら悠長に眺めてた。
まあ、それにしたってテニスコートの真ん中で何を初々しいことしとんねんとは思ったわ。
岳人の「大丈夫かよ」の一言で練習試合が再開して、もとの空気に戻ったんやけど。


今頃二人っきり(俺もいてるんやけどな)になって、さっきのハプニング思い出して熱がぶり返してきたんか?
宍戸はやけに早口だし、鳳は…それ、ネクタイの結び目おかしいやろ、オイ。
まったく不器用な奴らやなぁ。
ツッコミどころ満載やん。
けど俺はそんなふうにもじもじやってる二人も好きやし、暖かく見守って、時には背中押してやるくらいのつもりやから、今回も救済の手を差し伸べてやることにした。
銀髪の後輩を呼び止めて一言。

あんなぁ、鳳。
初めては緊張するんやで。
もっとやさしく押し倒さな、あかんよ?

やや間を空けて赤面した鳳と宍戸の怒声は、さらっと無視して帰ったわ。




End.





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