◇記念日 | ナノ



聖夜のプレゼント 7

あれからこんこんと眠り続けていた長太郎だったが、夜半にぼんやりと潤んだ目を開けた。

「…ご主人さま…」
「あ。大丈夫か?のど渇いてないか。なんか、欲しいものある?」

長太郎は首を横に振ると、散歩に行きたいと呟いた。

「こんななのに、行けるわけないだろ。治ったら行こうぜ?あ、ちゃんと犬に戻れよな」

そう言ってにやりと笑ったが、長太郎は笑いも怒りもせずに、悲しそうに眉を下げてしまう。

「大丈夫ですから。今日も、明日も、治ってからも行きたいです。…時間がないんです」
「え…?」
「実は…跡部さんに、25日になったら戻ってくるように言われているんです」
「…そんな…嘘、だろ…?」

長太郎は俺をまっすぐ見つめたまま、首を横に振った。

「まだ2日しか経ってないのに」
「言えなくてごめんなさい」

考えもしなかった。
クリスマスの奇跡が、聖夜の終わりと同時に消えてなくなってしまうなんて。

もう、あと1日しか長太郎と一緒にいられないのか?
追い出したり、風邪引かせたり、なんてひどい時間を過ごしてしまったんだろう。
「なんだよ…あの跡部とかいうサンタ!…プレゼントがレンタルだったなんて…聞いてねぇし。すげぇ、ドケチじゃん…」

声が震える。
なぜだか分からないけど、悲しい気持ちが急に溢れ出してきた。
もっと長太郎と一緒にいたい。

「ご主人さま…」
「俺、長太郎のこと、ちゃんと世話してねえ。まだ、帰ってもらっちゃ、困るんだよ。もっと、ちゃんと、面倒みてやらねぇと…『ご主人様』なんて呼ばせるわけにもいかねぇよ」
「そんな」
「長太郎。辛いことあったら、なんでも言ってくれ。なんでもする。まずは風邪治そう」
「ご主人さま…」
「あと1日だろうがなんだろうが、あのドケチなサンタに返す前におまえを元気にしたい。長太郎が俺を喜ばせてくれた分、俺も長太郎を喜ばせたい」

そう言って、俺は長太郎にぎこちなく笑いかけた。

「誰がドケチだって…アーン?」

ふと聞いたことのある偉そうな声が背後に聞こえたかと思うと、次の瞬間には鞭の音が響いていた。


ビシィッ――!


「痛ってえぇ!!せ、背中痛えっ!」
「ご、ご主人さま大丈夫ですか…!え?あ、跡部さん!?どうして」

痛さのあまり床でのた打ち回ると、長太郎が慌ててベットから降りてきた。

「侮辱は許さん。サンタ業界で俺様に勝るセレブなどいない!」
「いつのまに来たんだよ!」
「プレゼント――つまり鳳長太郎が緊急事態になると本部へ通知が来るようになっているんだ。まったく…どうやったら1日でこんな状態になるんだテメェ。アーン?」
「…それは……本当ごめん…」
「チッ。それに鳳!」
「は、はいっ!」
「おまえはプレゼントの立場だというのに浮かれてちゃんと俺の話を聞いてなかっただろう!この大バカ者!」
「え…?」
「俺は『25日になったら“いったん様子を報告しに”戻って来い』と言ったんだ」
「…えっ…?」






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