◇記念日 | ナノ



聖夜のプレゼント 6

そもそも長太郎は悪意を持って俺になにかしただろうか?
どういう経緯かはわからないけれど、贈り物として俺の家にやってきて、あれでも喜ばれようと必死だったんじゃないか?
遊んだことも、散歩したことも、一緒にベットで眠ったことも。
俺の為に、俺が寂しくないように、長太郎が一生懸命やってくれたこと。

「宍戸先生。初雪、降って来ましたよ」
「え…?」

ふと机から顔を上げると、窓の向こうのグラウンドに白い雪が舞っている。
暖房のきいた職員室にいるはずなのに、心臓は凍りついた。
外に追い出してきてしまった。
長太郎…、あたたかい所にいるだろうか。

「…すみません。俺、お先に上がります」
「はい?あ、宍戸先生」

いつも生徒に走るなと注意している廊下からアパートまで、全力疾走した。
走って走って、毎日見ている錆付いた階段を駆け上がる。

「あ…っ、長太郎…」

俺の家の前に体育座りしている銀髪がいた。

「ちょ、長太郎…!長太郎、だよな?」

伏せた肩がピクリと揺れる。

「その…今朝はごめん。俺が悪かった…」

長太郎は何も答えない。
冷え切って赤くなっているその手にリードが握られている。
たった一度、散歩に使っただけなのに。
俺はいっそう自分の吐いた暴言を後悔した。

「ごめん…!おまえが嫌いになったとかじゃないんだ。…昨日はいきなりサンタが来るし、今朝は長太郎が人間になっちまうし、いきなり信じられないことばっかり起きて…俺、テンパってて…どうかしてたんだ」

そしてまた「ごめん」という言葉しか出てこない。
俺はなにも言わない長太郎に、そっと自分のマフラーを掛けた。

「…もう俺なんて嫌かもしんねぇけど、迎えが来るまでは俺の部屋に…」
「嫌です!」
「……そう、」

だよな。言い切る前に俺は長太郎に抱きしめられていた。
冷たくなっている身体。
耳元でぐすぐすと鼻水をすする音がする。

「ずっとご主人さまの部屋にいたいです!まだ1回しか散歩してもらってないし…嫌です、嫌だ…やだ…」
「……うん。マジでごめんな…長太郎…」
「だから…、今、から、さん、ぽ…へ…」
「今から?無理だって」
「だめ…で、す…どうしても、今…すぐに…」

だんだんと息苦しい話し方をすると、長太郎の身体からがっくりと力が抜けていった。

「…おい、長太郎!?」

ようやく目にした長太郎の顔は真っ赤で、額には玉のような汗がにじんでいた。


犬なのか人間なのかそれ以外なのかも分からない長太郎だが、これは間違いなく風邪にやられている。
ずっと外にいて、身体が冷えてしまったのだ。
それに今日は雪が降るほどの気温。

朝追い出してしまったことに自己嫌悪しつつも、長太郎をベットに寝かせて、効くのかもわからないまま風邪薬を飲ませた。





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