聖夜のプレゼント 6 そもそも長太郎は悪意を持って俺になにかしただろうか? どういう経緯かはわからないけれど、贈り物として俺の家にやってきて、あれでも喜ばれようと必死だったんじゃないか? 遊んだことも、散歩したことも、一緒にベットで眠ったことも。 俺の為に、俺が寂しくないように、長太郎が一生懸命やってくれたこと。 「宍戸先生。初雪、降って来ましたよ」 「え…?」 ふと机から顔を上げると、窓の向こうのグラウンドに白い雪が舞っている。 暖房のきいた職員室にいるはずなのに、心臓は凍りついた。 外に追い出してきてしまった。 長太郎…、あたたかい所にいるだろうか。 「…すみません。俺、お先に上がります」 「はい?あ、宍戸先生」 いつも生徒に走るなと注意している廊下からアパートまで、全力疾走した。 走って走って、毎日見ている錆付いた階段を駆け上がる。 「あ…っ、長太郎…」 俺の家の前に体育座りしている銀髪がいた。 「ちょ、長太郎…!長太郎、だよな?」 伏せた肩がピクリと揺れる。 「その…今朝はごめん。俺が悪かった…」 長太郎は何も答えない。 冷え切って赤くなっているその手にリードが握られている。 たった一度、散歩に使っただけなのに。 俺はいっそう自分の吐いた暴言を後悔した。 「ごめん…!おまえが嫌いになったとかじゃないんだ。…昨日はいきなりサンタが来るし、今朝は長太郎が人間になっちまうし、いきなり信じられないことばっかり起きて…俺、テンパってて…どうかしてたんだ」 そしてまた「ごめん」という言葉しか出てこない。 俺はなにも言わない長太郎に、そっと自分のマフラーを掛けた。 「…もう俺なんて嫌かもしんねぇけど、迎えが来るまでは俺の部屋に…」 「嫌です!」 「……そう、」 だよな。言い切る前に俺は長太郎に抱きしめられていた。 冷たくなっている身体。 耳元でぐすぐすと鼻水をすする音がする。 「ずっとご主人さまの部屋にいたいです!まだ1回しか散歩してもらってないし…嫌です、嫌だ…やだ…」 「……うん。マジでごめんな…長太郎…」 「だから…、今、から、さん、ぽ…へ…」 「今から?無理だって」 「だめ…で、す…どうしても、今…すぐに…」 だんだんと息苦しい話し方をすると、長太郎の身体からがっくりと力が抜けていった。 「…おい、長太郎!?」 ようやく目にした長太郎の顔は真っ赤で、額には玉のような汗がにじんでいた。 犬なのか人間なのかそれ以外なのかも分からない長太郎だが、これは間違いなく風邪にやられている。 ずっと外にいて、身体が冷えてしまったのだ。 それに今日は雪が降るほどの気温。 朝追い出してしまったことに自己嫌悪しつつも、長太郎をベットに寝かせて、効くのかもわからないまま風邪薬を飲ませた。 前 次 Text | Top |