◇記念日 | ナノ



聖夜のプレゼント 5

日吉という奴が届けてくれた服を着た泥棒は「泥棒じゃなくてチョータローです!」と少し舌っ足らずに主張したが、そんなことはもうどうでもよかった。
そんなことより、そんなことよりも、だ。

「…なんで裸のまま外出るんだ…」
「すみません、身も心も犬になりきっていたもので。あっ、けど段ボールで前隠れてたんで、ギリギリセーフですよ!日吉に感謝です」
「完ッ全にアウトなんだよバカ野郎!感謝してねぇで反省しろこの露出狂!!」
「ご、ごめんなさい、ご主人さま!」

長太郎らしき男は、悲しそうな顔をして俺の方へ手を差し伸べる。

「…!それ以上近づくんじゃねぇッ」
「あ、は、はい…っ。すみません…」

男は慌てて部屋の隅に下がると、そこに正座した。

「ごしゅじ…」
「そっから動くな!」

俺は学校に来て行く服と鞄を持って、玄関のドアを開いた。

「出てけ!」
「えっ…。あの、でも俺は、」

昨日から散々なことばっかりで、もう無茶苦茶な気分だった。
昨夜のかわいいハスキー犬など記憶の彼方に飛んでいった。


「テメェ犬なんだろ!命令きけねぇのか!!」


「……はい……」


だから俺は。

長太郎の目が潤んでいたことも、小さな声が震えていたことも、全然気づくこともできずに…追い出してしまった。







その日は終業式だけで、生徒たちは正午にもなるとすぐに帰宅していった。
滅多に雪の降らないこの町も、今日は空を重たい雲に覆われて、とても冷え込んできた。
生徒だけでなく先生方も気楽になったのか「今日は早く帰ろう」なんて職員室は和気あいあいとしていたが、俺はとてもそんなのどかな気持ちになれなかった。

気がつくとクロのことを考えて、それから昨日うちへやってきたハスキー犬を思い出し、それ以外考えられなくなって……。
今朝の長太郎の泣きそうな顔を思い出した。

身元の分からない人間を追い出したって当然のはずなのに。
頭の中は最後にみた長太郎の悲しそうな顔が焼きついて離れない。
俺は何を後悔しているんだ。
あいつがやってきたことは俺が望んだことじゃない。
あいつがどうなろうと、責任はあのサンタクロースにある。
俺にはない。
けれど、長太郎にもなかった。

『出てけ!』

『テメェ犬なんだろ!命令きけねぇのか!!』


大人げなかった。最低だ。でも長太郎は何も言わないで、涙を堪えるだけだった。
あの顔が浮かぶと、罪悪感がずっしり重くなる。





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