聖夜のプレゼント 5 日吉という奴が届けてくれた服を着た泥棒は「泥棒じゃなくてチョータローです!」と少し舌っ足らずに主張したが、そんなことはもうどうでもよかった。 そんなことより、そんなことよりも、だ。 「…なんで裸のまま外出るんだ…」 「すみません、身も心も犬になりきっていたもので。あっ、けど段ボールで前隠れてたんで、ギリギリセーフですよ!日吉に感謝です」 「完ッ全にアウトなんだよバカ野郎!感謝してねぇで反省しろこの露出狂!!」 「ご、ごめんなさい、ご主人さま!」 長太郎らしき男は、悲しそうな顔をして俺の方へ手を差し伸べる。 「…!それ以上近づくんじゃねぇッ」 「あ、は、はい…っ。すみません…」 男は慌てて部屋の隅に下がると、そこに正座した。 「ごしゅじ…」 「そっから動くな!」 俺は学校に来て行く服と鞄を持って、玄関のドアを開いた。 「出てけ!」 「えっ…。あの、でも俺は、」 昨日から散々なことばっかりで、もう無茶苦茶な気分だった。 昨夜のかわいいハスキー犬など記憶の彼方に飛んでいった。 「テメェ犬なんだろ!命令きけねぇのか!!」 「……はい……」 だから俺は。 長太郎の目が潤んでいたことも、小さな声が震えていたことも、全然気づくこともできずに…追い出してしまった。 * その日は終業式だけで、生徒たちは正午にもなるとすぐに帰宅していった。 滅多に雪の降らないこの町も、今日は空を重たい雲に覆われて、とても冷え込んできた。 生徒だけでなく先生方も気楽になったのか「今日は早く帰ろう」なんて職員室は和気あいあいとしていたが、俺はとてもそんなのどかな気持ちになれなかった。 気がつくとクロのことを考えて、それから昨日うちへやってきたハスキー犬を思い出し、それ以外考えられなくなって……。 今朝の長太郎の泣きそうな顔を思い出した。 身元の分からない人間を追い出したって当然のはずなのに。 頭の中は最後にみた長太郎の悲しそうな顔が焼きついて離れない。 俺は何を後悔しているんだ。 あいつがやってきたことは俺が望んだことじゃない。 あいつがどうなろうと、責任はあのサンタクロースにある。 俺にはない。 けれど、長太郎にもなかった。 『出てけ!』 『テメェ犬なんだろ!命令きけねぇのか!!』 大人げなかった。最低だ。でも長太郎は何も言わないで、涙を堪えるだけだった。 あの顔が浮かぶと、罪悪感がずっしり重くなる。 前 次 Text | Top |