聖夜のプレゼント 3 もういちいち驚くのにも疲れていた俺は、箱の中に子犬がいたことにも「お、可愛い」としか思えなかった。 子犬はまったく警戒なく、俺の胸に飛び込んでくる。 とりあえず、一連の出来事の顛末が案外平凡で安堵のため息が漏れた。 「アイツ、マジでサンタクロースだったのかな」 「わんっ」 まるで返事のように鳴かれて、俺は子犬の頭を撫でた。利口な子かもしれないな…なんて。 そういえばさっきまで実家に置いてきたクロが恋しくてたまらなかったんだよなぁ。 あの派手な男…態度はでかかったが、いいセンスだ。 「この灰色の模様…ハスキーだな、おまえ」 「くぅん」 シルバーの首輪には『CHOTARO』と刻まれたプレートが付けられている。 箱に添えられていたカードにも、こいつが長太郎という名で、オスであることなどが記されていた。 なんだよ、もう名前決まってんのか…。って俺、怪しい人間に押し付けられた犬飼う気になっちまってるし!いけねえ。 「…でも、アイツどっか行っちゃったしな…」 返そうにも返せない。 どうしたらいいんだろう。 こいつ、置いてかれて寂しくないのかな? それとも、本当に俺のために用意されたのか? 「……ち、長、太郎?」 「わん!」 …可愛いな!クソッ! 仕方ねえ、サンタクロースが戻ってくるまで面倒みてやるか。 その夜、まずは親交を図ろうと思っていっぱい遊んだ。 それから町に1軒しかないホームセンターに行って、ドックフードとトイレとリードだけ買って、帰り道は散歩した。 就寝時間になると長太郎も当り前のようにベットに潜りこんできて、フワフワの身体に擦り寄られると、出会って数時間の子犬にすっかりノックアウトされてしまった。 胸に当たる小さなぬくもりに、俺は少しだけサンタクロースに感謝した。 しかし翌朝、事件は起こった。 俺は目覚めてすぐアパート中に響き渡るような叫び声を上げた。 なぜって、だって、そんな、ありえない光景が飛び込んできたのだ。 この時の俺は昨日サンタクロースが現れた時より恐怖を感じて、すぐさまベットから離れた。 慌てて近くにあったテニスラケットを掴むと、もぞもぞ動きだした毛布に向かって構える。 「だ、誰だ、おまえ!」 「…んんぅ…」 寝返りをうったそれは、毛布からひょっこりと灰色の頭をのぞかせた。 「…ご主人さまぁ…もう少し静かに起きてください…ん?違うか、わぅわぅ…あれ、声の調子が変だな…」 …じ…人語を話している…。 この瞬間まで、もしや長太郎が一晩で成犬サイズまで成長したのではと考えていたが、確立はゼロになった。 こいつはまぎれもなく不法侵入者だ! 「起きやがれ、泥棒!今すぐ警察に突き出して…あっ!昨日サンタに鞭で携帯ブッ壊されたんだった…!!」 なおも俺が必死に携帯の電源を入れようとしていると、泥棒がベットから起きあがった。 思わず視線を向けて、明らかになったその実態に俺は数秒絶句した。 男は裸だったのだ。 「なに騒いでるんですか、ごしゅじ……わー!戻ってる!ってか寒っ…!!」 前 次 Text | Top |