Little Rabbits 最近、長太郎の様子がおかしい。 なんだか元気がない。 「悩みごとがあるなら聞くぞ」という優しく頼もしい先輩(プラス、恋人)の申し出も「大丈夫です」で断りやがった。 本当に大丈夫なら、せっかく遊びに来たってのに隣でそんな浮かない顔するんじゃねえよなぁ。 「……」 「……」 さっきから数分置きに沈黙が訪れていて、短気な俺はいいかげんウンザリきていた。 「…なぁ、」 「あ、はい」 「これで最後にする。なんか悩み事あるのか?」 「……ない、ですよ?」 すすーっと目を逸らして言う長太郎。 心配なのはたしかだけど、なんで嘘を吐くのかと、最近じゃそれに腹が立ってくるばかりだ。 俺はそんなに信用されてないのかよ。 「あっそ。じゃあ俺帰るわ」 「えっ!まま、待って下さいよっ!」 カバンを持って立ち上がると、長太郎は慌てたようにズボンのすそにしがみついてきた。 「ならいつまでもウジウジした面してんじゃねーよ!悩み事ないんだろ?じゃあ、あれだろ?俺といるのつまらねえってことだろ!」 「ち、違いますよ〜!お願いだから座って下さいっ…!」 「だったら何考えてるのかちゃんと話せよ。……俺に関係することなんだろ」 長太郎はまた視線を逸らしてしまったが、否定はしなかった。 それを見て、俺もひっそり一緒に落ち込んだ。 長太郎の様子がおかしくなった原因として、一番考えたくなかったことが、頭に浮かんできた。 「…あれのせいなんだろ。……この前、最後までヤッたの、後悔してるんだろ」 「あっ、いや…あの…っ」 「気ぃつかわなくていいから。お前、あれっきりキスもしてこねえもんな」 「いや、あの、宍戸さ」 「一回くらいならまだ引き返せるってか、その、元に戻れるんじゃねえの。俺は別に平気、だし」 「宍戸さんっ!!」 大声出して立ち上がったかと思うと、長太郎は顔をぶつけるようにキスをしてきた。っていうか今の、鼻を確実に強打した。 「いってぇ〜!!アホッ!急に何するんだ!」 「す…すみませ……だって宍戸さん、泣きそうな顔で言うから止めようと…」 「な、泣いてねえよ!」 「涙ぐんでます」 「ち、長太郎が顔面アタックしてきたせいで痛いんだよ!泣いてない!」 「……」 それでも長太郎が訝しげに見てくるから、俺はくるりと背中を向けた。 これ以上同情されても、惨めなだけだ。 と、俺がせっかく突き放したのに、長太郎はそっぽを向いた俺のことを、後ろからそっと抱きしめてきた。 「ちょうた、」 「キスもまともにできなくてごめんなさい」 「…あ?」 「え、えっちも…宍戸さんに痛い思い、させちゃいました。…本当に本当にごめんなさい」 「……別に怒ってねえよ」 「宍戸さん、優しいから我慢してくれるんですよね。でも俺、それだと調子乗っちゃうんです」 「どうゆうことだよ?」 耳元に弱った声だけ響いて、少し心配になった。 でも、わざとか無意識か分からないが、長太郎ががっちりホールドしてくるせいで、俺は後ろを振り返ることもできなかった。 「宍戸さんの身体に負担かけてるのは重々承知しています。なのに俺…またすぐシたくなっちゃって…あの時ももう一回したいって思ったし、次の日、宍戸さんの着替えてるとこみてるだけでそういう気分が抑えきれなくなりそうになって……この一週間、四六時中そんなことばかり考えてました。今も、宍戸さんが部屋にいると思うと、やばいです」 息苦しそうに言葉を紡ぎきった長太郎は、そのまま俺の身体を離すとベットにすとんと座りこんだ。 「あの…だからその…一緒には居たいんですけど、帰って下さい…」 「長太郎」 「はい?―――痛っ!!」 俺は、顔を上げた長太郎に思いっきり頭突きした。 「宍戸さ…っ、キスじゃ、な、」 「これは頭突きだ!呆れたんだよバーカ!」 「え…?」 「一週間もすりゃケツ痛いのなんて治んだよ!」 「け、けつ、って…」 「おまえのウジウジは、うまくヤれるか心配してるのが、半分」 「…ち、違いますっ…」 「半分、そうだろ」 「う…いや…」 「…はぁ。ったく」 はっきりしない返答は相変わらずイラッとしたけど、もう問い詰める気にはならなかった。 かわりに、俺もベットに腰掛けると、長太郎を抱きしめた。 「だからってキスもしてこねえんじゃ、俺が呆れられたのかって思っちまうだろーが」 「ごめんなさい」 「俺は、長太郎がうまくできなくても呆れたりしねえよ。…って俺も一緒に頑張らないといけないことだけどさ。かっこいいとこだけ見せようとすんなって。な?」 「宍戸さん…」 数秒見つめて瞳を閉じると、長太郎の唇がそっと触れた。 久しぶりのぬくもりが安心感を連れてくる。 ふたたび目を開けると、長太郎は控えめに微笑んだ。 長太郎は俺にかっこいいところを見せたいようだが、俺は案外こういう可愛いところが好きだったりする。 一時は別れも覚悟したけど、やっぱり簡単には離れたくない。長太郎と見つめ合いながら、俺はそんなことを再認識していた。 長太郎、もう大丈夫そうだな。 ホッとしたところで、俺はふと気付いてしまった。 「長太郎」 「はい」 「そもそもやる気ない奴は上達しないけど、おまえはその辺大丈夫そうだな」 「え?」 「…さっそくするか?」 長太郎は発情期の犬みたいだし、俺は股間を指さしながら…誘い文句もへったくれもないし。 それでも愛しいとか求め合いたいとか思うんだから、これでいいんだよな、俺達。 End. (鳳宍記念日おめでとう!) 前 次 Text | Top |