花結び 4 「分かんねえんだ、どうしたらいいのか。多分、これからも、ずっと分かんねぇと思う」 いつもそうだ。すれ違うこと、かみ合わないことばかりなのに、でもほんの少しがぴたりと重なる。それがどうしようもなく居心地が良い。 好きかなんて分からない。 ただ、隣で、笑顔でいて欲しい。 「だからさ、たまには……長太郎が、俺のこと引っ張れよ……」 「……宍戸さん……」 俯いていたら、ふいに回された腕にぎゅっと身体を包み込まれた。なんだか、懐かしい匂いがした。 首筋に顔を埋める長太郎から洟をすする音がする。 「嬉しい」 「うん」 「嬉しくて、俺はまた宍戸さんを困らせちゃうと思う」 「うん」 「だから、ちゃんと躾けて下さい」 「ははっ。なにそれ」 笑ったら、いきなり長太郎がキスをしてきた。 「こういうことです」 そう言って、もう一回。 「…んだよ、おまえ…手ぇ早いぞ」 「半年以上我慢してました。それに“ヨシ”が出たら犬は待たないよ、宍戸さん」 生意気なことを言い、長い指が頬を撫でる。赤い顔で言っても説得力がないらしい。 長太郎は俺の手を握りしめながら、嬉しそうに頬を寄せた。 柔らかい微笑みに、俺はホッとして、少しドキドキした。 「宍戸さん。大事にするから、どこにもいかないで下さい」 「…分かったよ」 冷たい風が桜のつぼみを揺らしてく。 風が止むと、日差しの暖かさに包まれた。 「長太郎。高校で待ってるからな」 「すぐに追いつきます」 約束をして、瞼を閉じる。 またキスが降りてくるのを待つ数秒が、春のように暖かかった。 End. 前 次 Text | Top |