◇記念日 | ナノ



花結び 4

「分かんねえんだ、どうしたらいいのか。多分、これからも、ずっと分かんねぇと思う」

いつもそうだ。すれ違うこと、かみ合わないことばかりなのに、でもほんの少しがぴたりと重なる。それがどうしようもなく居心地が良い。
好きかなんて分からない。
ただ、隣で、笑顔でいて欲しい。

「だからさ、たまには……長太郎が、俺のこと引っ張れよ……」
「……宍戸さん……」

俯いていたら、ふいに回された腕にぎゅっと身体を包み込まれた。なんだか、懐かしい匂いがした。
首筋に顔を埋める長太郎から洟をすする音がする。

「嬉しい」
「うん」
「嬉しくて、俺はまた宍戸さんを困らせちゃうと思う」
「うん」
「だから、ちゃんと躾けて下さい」
「ははっ。なにそれ」

笑ったら、いきなり長太郎がキスをしてきた。

「こういうことです」

そう言って、もう一回。

「…んだよ、おまえ…手ぇ早いぞ」
「半年以上我慢してました。それに“ヨシ”が出たら犬は待たないよ、宍戸さん」

生意気なことを言い、長い指が頬を撫でる。赤い顔で言っても説得力がないらしい。
長太郎は俺の手を握りしめながら、嬉しそうに頬を寄せた。
柔らかい微笑みに、俺はホッとして、少しドキドキした。

「宍戸さん。大事にするから、どこにもいかないで下さい」
「…分かったよ」

冷たい風が桜のつぼみを揺らしてく。
風が止むと、日差しの暖かさに包まれた。

「長太郎。高校で待ってるからな」
「すぐに追いつきます」

約束をして、瞼を閉じる。
またキスが降りてくるのを待つ数秒が、春のように暖かかった。




End.





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