◇記念日 | ナノ



花結び 3

あの告白をなかったことにするなんてできないのに、長太郎を傷つけるようなことばかりした。
自分だったら、そんなこと相手にされたら辛いに決まっているのに。
自分の保身しか考えていなかったんだ。
俺はバカだ。

「鳳くん、行っちゃったけど、いいの…?」

抱きしめられた記憶がよみがえると、心臓が石になってしまったように重く苦しくなった。

「…悪い。追いかけていいか。約束…あるんだ」
「ううん、私こそ!忙しいのにごめんなさい」
「俺が春野を呼んだんだろ。チョコ、ありがとな。…じゃあ」

踏み出そうとした足を春野の声が引き留める。

「あのっ!宍戸くん、また氷帝だよね?えっと、また高校で…よろしく、ね」
「おう、よろしく」



学校中を捜し回って、あてもなくグラウンドの方へ行くと、長太郎は部室前にしゃがみこんでいた。

「長太郎…」

長太郎は顔を伏せたまま返事をしない。
そっとそばに寄り、同じように隣にしゃがむ。と、いきなり首根っこに抱きつかれた。あんまりぐいぐい引っ張るから、ラケットバックが肩から落ちた。

「お、おい」

ぎゅううと力が込められて、痛いってところで一気に緩んだ。
それから両頬をがっちり挟まれたかと思うと、長太郎の顔が近付いてきて……唇が触れる、寸での所で止まった。

「……なんで…なんで、殴るとか、突き飛ばすとかしないんですか?」
「…分かんねぇよ…」

そう言うと、長太郎はスッと離れた。

「ちょうた」
「あの人と付き合うんですか」
「え?」
「廊下で話してた女と付き合うんですか」
「違う…バレンタインのお礼だよ。…何、おまえ、ヤキモチ焼いてんのか」
「腹が立ってます」
「……そうか」

俺は落ちたラケットケースを壁に立て掛けてから、長太郎の横に座り直した。
長太郎は少し顔を背けるように、膝に頬杖をついている。

「…ごめん」
「……」
「結局、言われたこと受け止められなくて、逃げてたんだよな。俺」

長太郎はそっぽを向いたまま、ふっと笑い声を漏らした。

「いいんです。男に告られたら普通、絶交くらいするでしょ」
「でも俺はそれもできねえから、余計酷いってところか?」
「分かってるなら…っ、」

振り向いて大声を出した長太郎だったが、途中でぐっと言葉を飲んだ。





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