花結び 3 あの告白をなかったことにするなんてできないのに、長太郎を傷つけるようなことばかりした。 自分だったら、そんなこと相手にされたら辛いに決まっているのに。 自分の保身しか考えていなかったんだ。 俺はバカだ。 「鳳くん、行っちゃったけど、いいの…?」 抱きしめられた記憶がよみがえると、心臓が石になってしまったように重く苦しくなった。 「…悪い。追いかけていいか。約束…あるんだ」 「ううん、私こそ!忙しいのにごめんなさい」 「俺が春野を呼んだんだろ。チョコ、ありがとな。…じゃあ」 踏み出そうとした足を春野の声が引き留める。 「あのっ!宍戸くん、また氷帝だよね?えっと、また高校で…よろしく、ね」 「おう、よろしく」 学校中を捜し回って、あてもなくグラウンドの方へ行くと、長太郎は部室前にしゃがみこんでいた。 「長太郎…」 長太郎は顔を伏せたまま返事をしない。 そっとそばに寄り、同じように隣にしゃがむ。と、いきなり首根っこに抱きつかれた。あんまりぐいぐい引っ張るから、ラケットバックが肩から落ちた。 「お、おい」 ぎゅううと力が込められて、痛いってところで一気に緩んだ。 それから両頬をがっちり挟まれたかと思うと、長太郎の顔が近付いてきて……唇が触れる、寸での所で止まった。 「……なんで…なんで、殴るとか、突き飛ばすとかしないんですか?」 「…分かんねぇよ…」 そう言うと、長太郎はスッと離れた。 「ちょうた」 「あの人と付き合うんですか」 「え?」 「廊下で話してた女と付き合うんですか」 「違う…バレンタインのお礼だよ。…何、おまえ、ヤキモチ焼いてんのか」 「腹が立ってます」 「……そうか」 俺は落ちたラケットケースを壁に立て掛けてから、長太郎の横に座り直した。 長太郎は少し顔を背けるように、膝に頬杖をついている。 「…ごめん」 「……」 「結局、言われたこと受け止められなくて、逃げてたんだよな。俺」 長太郎はそっぽを向いたまま、ふっと笑い声を漏らした。 「いいんです。男に告られたら普通、絶交くらいするでしょ」 「でも俺はそれもできねえから、余計酷いってところか?」 「分かってるなら…っ、」 振り向いて大声を出した長太郎だったが、途中でぐっと言葉を飲んだ。 前 次 Text | Top |