◇記念日 | ナノ



花結び 1



『ずっとずっと、好きでした』


長太郎に衝撃告白されたバレンタインデーから早一ヶ月が過ぎた。
校内の桜も季節の変わり目を知らせるように、小さいつぼみを少しずつ色づかせている。

卒業式は終わったものの、本日ホワイトデーは登校日に指定されていた。
俺は下校する生徒を見送りながら、下駄箱に寄り掛かって人を待っている。

バレンタインデーには、机の中に一つ、下駄箱の中に一つ、長太郎との約束があるからと急いでいた下校時に一つ、チョコレートを押し付けられていた。
毎年ながらホワイトデーは困りものだ。
もらったなら返せばいい。けれど、それが無性に照れ臭い。
でも今年はハッと前日に気がついて、慌ててお礼を用意していた。
悩んでいる暇なんてなかった。
長太郎が俺を好きだなんていうからだ。そのせいで、一月分……いや一生分くらいの悩む時間は使い果たした気がするほど。
でも、あの日からも長太郎とはいい先輩後輩関係を続けている。
長太郎の気持ちは分かったけど、結局はそれで精いっぱいだったのだ。
そもそも同性に告白されるなんて、もっと大人が直面するレベルの問題じゃないのか。
どうすることもできずに、長太郎が俺を「恋愛感情で好き」という気持ちと、俺が長太郎を「後輩として可愛く思っている」気持ちが、かみ合わないまま同居し続けていた。

長太郎も俺を困らすまいとしているのか、前と変わらない笑顔で接してくれている。
そもそも、卒業してから会う機会が激減していた。
キスも、抱きしめられたのも、あの日一度だけだった。


マシュマロが入っているらしい、青いリボンでラッピングされた小さな箱。
それを握りしめ、俺はまばらに過ぎる生徒の波を見渡していた。
久しぶりに見る顔もいる。でも氷帝学園はレスカレーター式に高校進学する生徒が大半で、さして感慨もないんだが。

「……あ、」

見つけたのとほぼ同時、向こうもこちらに気付いたようだった。
待ち人。隣のクラスの女の子。図書室のカウンターに座っていた記憶があるが、話したことはあまりない。
なぜかびっくりしたようにそこに硬直されてしまったので、俺は待つのをやめてその子のもとへ歩み寄った。

「あの、春野さん?」

バレンタインチョコに添えられていた手紙を頼りに名前を呼ぶと、

「し…宍戸、くん、……さよう、なら」

彼女はぎこちなくそう呟いて、俺の横をさっと通り過ぎようとした。

「あっ、待って!その、バレンタインチョコくれたろ?」

慌てて手を掴むと、俯いた顔が、ぶわっと音がしそうなほど真っ赤になる。
しまった。こんな人通りの多い所で言うことじゃなかったんだ。

「ご、ごめん!…あー、あっちで、ちょっと話したいんだけど…時間あるか?」
「……は、はい……」

スタスタと歩きはじめると、背の小さい春野は小走りで付いてくる。ハッとして歩く歩幅を小さくした。
俺って歩くの早いのか?いや、長太郎も俺と同じくらいだよな。





Text | Top