聖夜のプレゼント 1 臨時の先生として田舎町の小学校にやってきて、初めて迎える冬。 なにもないようなこの町にも年末の慌ただしい雰囲気が漂ってきた。 けれど俺には何一つ慌てることがない。 平和すぎる町に平和すぎる人々。こたつと仲良しこよしやってれば年越しできてしまうのだ。生徒達は、やれクリスマスだ、やれ正月だとはしゃいでいるというのに。 そばに家族も友達もいない。ついでに彼女もいない。俺は季節の移り変わりとともに増してきた寂しい気持ちに耐えきれず、実家に電話をした。 この寂しさを解消できる、画期的なアイディアがひらめいたのだ。 「だからさ、クロをこっちに連れて来たいって言ってんだよ」 「仕事も慣れてないアンタに犬の世話やれるわけないでしょう?」 しかしさきほどから母さんとこの押し問答を延々と繰り返している。 向こうにも一理あることは認めよう。 だけど、俺は前からクロを実家に置いていったことを悩んでいたし、この物寂しい田舎町にもどうにかなりそうだったし、そうかんたんに諦めきれやしなかった。 それに、クロは俺が小さい頃に拾ってきた犬なんだ。 あいつは俺の兄弟なんだよ! 「頼むよ!絶対ちゃんと面倒みるから!」 そんな気持ちを込めて、俺は携帯電話に向かって必死に叫んだ。 もうそれしか方法を思いつかなかった。 だが数秒の無言の後に聞こえてきたのは、ひどく気の抜けた溜息で。 「…とりあえず、大晦日にこっち帰ってくるでしょ。その時にクロにも会えるからね。明日で授業終わりなんでしょ?頑張りなさいよ、じゃあね」 「え、待っ…!」 ツーツーと響く空しい音。 待ち受け画面からつぶらな瞳を向けるクロにいっそう切なくなって、俺はコタツに突っ伏した。 いくら憧れの教師になれたといっても、プライベートもちょっとは充実させたい。だからペットがいたらな、なんてちっともわがままじゃねえだろ?いいじゃねえかよ! 「もうたくさんだ。クロぉ…すげえ会いてぇ…」 「呼んだか、アーン?」 「え?……うわ!だ、誰だおまえ!?」 背後を振り向くと、ネオン輝く豪華なソリから、真っ赤な服を着た男が腕組みをして俺を見下ろしていた。 こんな狭い部屋にでっけぇ鹿(?)まで乱入してやがる!どうなってんだ!? 「フン、庶民ってのは落ち着きがなくてどうも好かねぇぜ。いいか?俺様はなぁ、天下の」 「泥棒だ…!」 混乱してベランダへ逃げようとした俺に、男は「泥棒なんかと一緒にするんじゃねえ!」と怒鳴り、鞭を鳴らした。 そのあまりにキレの良い音に、俺の動きも自然と止まる。 「きちんと最後まで人の話を聞きやがれ!俺様はサンタクロースだ。貴様の願いを叶えに来てやったぞ!」 「…」 …今日は12月23日だ。 俺が携帯に110番を打ちこむと、奴は手にしていた鞭を再び容赦なく振るった。 前 次 Text | Top |