聖夜のプレゼント 9 「あの、こっち向いてくれないんですか?」 「体温わけてやるだけだし、そっち向く必要ないだろ」 「…寂しい…」 「いいから寝とけっ」 ぶっきらぼうに吐くと、長太郎はつまらなさそうに「はぁい」と言う。 でも、すぐに背中に寄り添ってくる。 自分で添い寝を始めたのに、なんだか無性に逃げ出したくなった。 風邪を引いてるからだろうか。長太郎の体温が焼けるように熱い。 「あ、ご主人さま」 「な、んだよ?」 「さっき…跡部さんが『人間か犬かどっちかにしろ』って言ってましたよね。その…急なんですが、そろそろ決めてもらってもいいですか?」 「えっ?何それ、選べんのか?」 俺は長太郎の言葉にびっくりして結局振り返ってしまった。 ちょっと、背中が熱いから、体勢を変えたかったっていうのもある。 長太郎はうれしそうに笑って、やっぱりくっついてくる。結局熱いままだ。 「いえ、あのですね…選べるのではなく、ご主人さまが迷っているだけ、というか」 「…俺が迷ってる…?」 「だから急に俺の変身がとけたりしちゃったんですよ。ご主人さま、あなたは今なにが欲しいんですか?心のずーっと奥では、なにを欲しいと思っているんですか?」 「………」 ……俺は……。 …長太郎が来る前は、すっげぇつまらなくて。寂しくて。 それで、クロを――。 「犬は代用品だった。思い出して下さい、あなたは家族も友達もいないこの町にひとりぼっちで、心許せる人、寂しさを紛らわせてくれる愛しい人が現れることを願っていたはずですよ。…意地っ張りなところも可愛らしいですね」 「そ、そりゃ、普通に誰だって思うだろ、そんくらい!つか、長太郎は男だろ!」 「気付いてないみたいですけど、ご主人さまってバイですよ。調書によるとこれまでの恋人は全員女性のようですが…あっ、じゃあ処女!?」 「……は……?」 「俺は女の子にもなれますけど…個人的にご主人さまは『抱かれる』より『抱きたい』って思ったので選ばせてもらいました!えへ、これ俺の本来の姿なんですけどどうですか?」 「……おおおおまえやっぱホモだったのかー!!」 「ご主人さまも似たようなもんじゃないですか。男にドキッとしたことあるでしょう?」 「か、勝手に人の性癖決めんな!ね、ねぇよ!!」 「ご主人様が恋人も欲しい犬も欲しいってフラフラしてるから、より強く求めているものを教えてあげてるんですよ?後悔して欲しくないんです」 「…後悔…」 「俺もリード買ってもらえて嬉しかったから、もっとお散歩も行きたかったんですけど。なにもかも欲しいなんて望んではいけませんしね」 いつのまにか腰を抱かれて、目の前には真剣な顔だ。 飲み込まれてしまいそうだった。 少しでも、油断したら…。 「……亮、」 「!」 何も言い返せないでいると、急に名前を呼ばれた。 いつも「ご主人さま」と呼ばれていたからだろうか、肩が大げさに震えてしまった。 「一目ぼれです。あなたにも“俺”を選んで欲しい」 「ム、リだよ…」 「平和な町に平和な人達…。俺が刺激的にしてあげますよ?」 まるで誘導尋問だ。 これに頷いたら大変なことになる。 けれど…目の前の甘い笑顔を見ていると、その誘惑にとても足を踏み入れたくなった。 「好きです」 頬にそっと手を添えられ、 「これまでクリスマスプレゼントを断った人は誰もいません。どうしてだか分かりますか?」 唇をなぞられて、 「それは…本当に欲しいものしか、その人のところへ贈られないからなんですよ」 受け取ってくれますか?――そう囁かれて、俺は瞼を閉じてしまった。 その後、長太郎の姿がどうなったかはあのキスで決まったようなものかもしれない。 End. 前 次 Text | Top |