誕生日を迎える夜だから だから、なんかプレゼントしたかったんだけどさ、今月ピンチでさ。ごめん。 2月13日の昼休みのことだった。 今月ピンチで小遣いを切らしているということらしい。 それから彼は、少し間を置いて、俯きがちにつぶやいた。 「だから、考えたんだけど」 「はい」 「あー。な、なんか言うこときいてやろうか?……っていうのは、ダメか」 ダメかと見上げた愛らしく魅惑的な猫目、不安げな柳眉。 絶対に狙ったわけではない。 そんなこと、男気あふれる宍戸さんがするはずないのだ。 「いえ!」 込み上げるときめきに震えそうな体を抑えつけて一言告げると、宍戸さんは「おし!…あっ、いや、なんか悪ぃな」といつもの調子に戻ったのだった。 「…で。お願いってのは、今夜おまえんちに泊まって欲しいって、それだけか」 風呂上がりの宍戸さんは、半裸に短パン一枚で、母さんの敷いた来客用布団の上であぐらをかいている。 ああ、短い裾から無防備に曝される日焼けの線を残した太もも。 それだけで誕生日という役得感を十分味わってしまう。 それとも、誕生日に浮かれて、何もかも特別に感じやすくなっているのだろうか。 いや違う。そもそも俺は宍戸さんがいるだけで、なんでも二倍は嬉しくなってしまうのだ。 おっと。本題を忘れちゃいけないな。 「いえ、あのですね、もし、もし良かったら…一緒の布団で寝たいんです!ね、眠るだけです!それで、12時になったら…」 「あーハイハイ『おめでとう』って一番最初に俺が言うのな」 「は、はい!お願いします」 宍戸さんは俺より落ち着いてるというか、ちょっと呆れてる? ずるいなぁ。俺は昼休みからずっと焦らされてるのに。 「それから?」 「えっ。あ〜…えっと…………できたら、だ、抱…きしめたい」 それからどうするかなんて聞かれると思っていなかった俺は慌ててプレゼント内容を付け足した。 さっき眠るだけと念を押したくせに、つい本音がでてしまった。 宍戸さん、引いたかな。 「ハイハイそれから?」 「えっ!?」 「それから?」 「あっ、えっと、き……、えっと、き、…き。きッ、」 「き?」 「きっ…キス、してもらえたら…あっいや俺がしたいんですけど、えっと、ホントその、一瞬で、その、どこでもいいんですけどっ…!」 や、やばい。 まだお願いできるなんて考えもしなかったから、変なこと言ってしまった。一瞬でいいとか、なんだよ!あぁ。 変なことというか、エロいことばっかり頼むなコイツとかって思われたら嫌われちゃうかもしれないし。あああ、キスしたいけど前言撤回したい…でも…! 「んで?それから?」 「…………ぇ……えっ、と」 「うん」 かろうじて、声を絞り出した。 今日一番のファインプレイだ。ここで黙ったらきっと『それで終わりだな、よし』と宍戸さんなら言い兼ねないのだ。 キスもOKだなんて、どういうことなんだ。 そもそも告白を受け入れてもらえただけで奇跡だと思っていたのに。 まだ数回、手を繋いだだけなのに。 そんなことしたら……そんなことしたら俺は、心臓が爆発して、死んでしまいそうだ。 大好きなんだ。 宍戸さんが、大好きなんだよ、俺。 「……手を」 「ん」 「……手を、繋いで、眠りたいです」 「……」 宍戸さんは組んでいた脚を解くと、パッと立ち上がった。 いまだ綺麗に畳まれたままのTシャツを置いて。 蛍光灯に、湯上りの肌が眩しい。 「了解」 うんと伸びをしてから、俺の隣に座った。 そしてこちらをまっすぐ見上げる。 「長太郎」 「?」 「長太郎」 「はい」 「……よいしょっと」 よいしょ? ん?と思ったら、次の瞬間に宍戸さんが俺の膝の上に跨っていた。 「し、宍戸さん!?」 「……」 それからギュッと俺の首に腕を回して抱きしめる。 ……俺、こんなことお願いしてないのに……。 嬉しすぎて、頭が沸騰しそうだ。 密着した肌から少し高い体温が伝わってきた。 湯上りの匂いとか、ほどよく筋肉のついた体の弾力とか、それはそれは刺激が強すぎて、俺は抱きしめ返していいのかも分からず、シーツをきつく握り締めた。 抱きしめ返していいのだろうか? そんなことしたら、気持ち悪いと思われるだろうか?? ああ、分からない。 宍戸さんがこんなに可愛いのに! 「おまえってまだ13歳だもんな」 「え…?」 「俺より背ぇ伸びやがったくせに」 細い指が、後ろ髪をくるくると弄ぶ。 耳元で、まぁ可愛いのも今のうちか…と囁くように笑う声が吹き込まれた。 13歳、最後の二時間の出来事だ。 End. (Happy Birthday Chotaroh Otori!!) 次 Text | Top |