◇誕生日 | ナノ



17

だからふくらんでるほっぺたツンツンしたいなんて思ってしまう。
本人を目の前にこんな妄想して、ウジ虫野郎もいいとこだぜ。
落ち込む……でも長太郎可愛い、好き。カッコよくて仕方ない。わけがわからない。
「茶化さないで下さい、もう」
長太郎はぷんぷん顔をやめて唇を噛みしめる。
怒った顔もカッコイイし可愛いなんて、長太郎ぐらいだよな。
「褒めたって許しませんからね。ちゃんと話しましょうよ、宍戸さん。声に出して」
無理。頭ぐるぐるしてるし、何をどうやって弁解すればいいのかわからない。
変態でごめん。もう二度と近寄らないからって言えばいいのか?
俺、やだよ。
こんなキモくて変態なのに、長太郎に嫌われたの確定なのに、それでも隣にいたいって思ってしまうんだ。
もう取り返しのつかない状態なのに。
誰かにこの座を取られてしまうのは嫌だ……。
彼女だって、本当は作らないで欲しい。やだ。
「嬉しいです。宍戸さんは、そういうワガママは絶対に言わない人ですからね。でも、声に出してほしいです。俺が宍戸さんの心の声に返事をするのは簡単だけど、俺は宍戸さんの言葉で聞かせて欲しいんです」
言葉……?
無理だよ。なんて言えばいいんだよ。
なんて話せば。
口を開こうとしたら、唇が震える。息ができない。
「宍戸さん」
肩に置かれていた長太郎の手が、優しく頭を撫でる。
それから頬に降りてきて、指先が唇をなぞった。
「名前を呼んでよ、宍戸さん」
喋り出したら、俺と長太郎は終わりだ。終わりが始まる。
長太郎の前から立ち去らなくちゃならないんだろ?
そんなのできない。
「だから、そんなことしなくていいんだよ、宍戸さん。俺は宍戸さんに名前を呼んでって言ってるだけじゃないですか。それともこのまま脳内会話、続ける気ですか」
鷲掴みされた肩を押されて、俺の身体はシーツに沈んだ。
宍戸さんとまた名を呼ばれる。
苛立っているのか語尾がキツイ。
頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
これ以上汚い自分を見られたくなくて顔を隠した。
そんなことをしたところで、心の中は丸見えだというのに。
「……宍戸さん。ねぇ、宍戸さん。俺から離れないで」
「ちょ……長太郎、ごめん。……俺、気持ち悪くて……。長太郎が……好きなだけなんだ。これ以上……め、いわく、掛けない、絶対」
だから、……嫌いにならないでくれなんて言えない。
じわ、と涙腺が熱くなる。





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