◇誕生日 | ナノ



15

くすぐるっていうのは不快感に繋がるかもだけど、引っ張るっていうのは痛みからの驚きとか怒りとかに繋がるだろうからな、セクハラにはならねーだろ。
とにかく、もう、なんでもいいからアレに触れたいんだよ!
もし引っ張って長太郎がウワーッってなったら、こっちもどらぁーってなって、激どらぁーッってして、あわよくば、ふざけて噛みつけるかも、だ!
え?
全然理屈も通ってないし計画性がないって?
いや、ムリだろ。この状況で冷静になるのとかムリだろ。
よよよ、よし!宍戸亮、一世一代の覚悟だ!
なんか長太郎の耳も桃色っつーか赤いし!
機は熟した!!!

右手はカモフラージュにマッサージし続けたまま、そっと左手を腰から離した。
そーっと。そーっと。
長太郎の真っ赤でかわいい左耳に狙いを定める。
あと数ミリ。
俺は天使のマシュマロ耳たぶを堪能するッ―――!!!!
「いいいいけません!!!」
叫びと同時に俺の左手首は捕縛されていた。
「……え?」
バッと勢いよく振り返った長太郎は、涙目で、顔も真っ赤だった。
「耳は、ダメ。すっごいくすぐったいんです、俺」
………え?
なん、で?
え??俺いま声出してないよな?
「はい、出してないです」
「―――!!」
「あの、プロレス技や脇腹こちょこちょは我慢します。だから耳を噛むのだけはやめて欲しいです、宍戸さん」
さっき俺の妄想していたことだ――!!!
ど、どういうことだ?
「よく分からないんですけど、さっきからその、宍戸さんの心の声?が聞こえてくるんです」
俺は頭が真っ白になって、そして顔色が真っ青になった。
「あっ、大丈夫!俺だけしかこの声は聞こえてないみたいなので」
大丈夫?
俺の空耳か?
一番聞こえちゃまずいの長太郎だぜオイ。
誰か、これは夢だと言ってくれないか。
「夢なんかじゃないです。だって……宍戸さんが『俺の天使』って言ってくれたんだから……えへへ」
――全部、聞こえていたというのか?
俺が気持ち悪いくらい長太郎を崇拝してる上に変態でスケベな妄想までしていたことが、全部ぜんぶ、筒抜けになってたのか?
「いやらしいことなんて男は誰だって考えますよ。それに、普段の宍戸さんはあまりおしゃべりな方でもないから、今日はいろんな思いを聞けて、俺はうれしかったですよ」





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