02 最近じゃ慣れたもので、萌える瞬間は見逃さないし、どんなに萌えるシーンを目撃してしまっても真顔でいる術を身に付けた。 おそらく、身近にいる忍足という変態の先駆者がいたこともかなり影響しているだろう。 それまでの俺は、テニス以外でこんなにも胸が熱くなることはなかった。 すぐ隣に天使がいたことにも気がつかない、浅はかな男だった……。 まぁ、中学生男子の頭の中なんて多少なりとも変態だろ。 ここから先はスルースキル必須だぜ。 あと、最初に言っておくけど。 部活を引退してからなかなか長太郎と遊ぶ機会がなかったので、本日の俺は変態に輪をかけて浮かれている。 例えるならば『コミケに行った忍足』とほぼ同じ状態であると思ってくれていい。 長太郎は俺がキュンキュンしたりニヤニヤしてることに気づく様子もなく、ジュースに口づけた。うーん、イケメン。 「おいしい。でも宍戸さんがこんな甘いのなんて珍しいですね」 「たまにはな」 実は忍足にもらったやつなんだけど、長太郎好きそうだったから餌付けに使ってみた。 何が楽しいのか長太郎はまたニコニコする。 まったく、これじゃどっちが誕生日を祝ってもらえるのか分からないじゃねーかよ。 「えへへ。すみません」 「ん?」 「だって、この時間から明日の朝まで、宍戸さんの誕生日をずーっとお祝いできるのがうれしくて」 くく、はしゃいでる自覚あるんだな。 「別に謝ることじゃねーし」 引退した先輩だっていうのに、わざわざ家に招かれて祝ってもらえるなんて俺は幸せ者だ。 むしろこっちが礼を言うべきなんだ。 まぁ、それは最後にとっておくけどよ! 「……えへへ」 ぶっきらぼうで口数の少ない俺に慣れっこの長太郎は、何を悟ったのか小さく笑う。 「おっといけね。急がなくちゃッスね!」 長太郎はロッカーに向き直るとジャージの上着を脱ぎ、白いシャツの裾に手を掛ける。 現れたのは、およそ中二とは思えないようなしなやかな筋肉、引きしまった身体――。 俺は唇を噛んで、雄叫びを堪えた。 しかしその代わりに妄想が爆発したのは言うまでもない。 ちょっ、なにその背筋激ヤバだろ。 ににに、二の腕っ! 太い! ムキムキ!! いつも隣に並んで着替えてたから、じっくり観察できなかったんだよなぁ。 ああ、ほんと……あんな可愛いベビーフェイスとムキムキ筋肉がくっついてるなんて信じらんねーよもう。 イケメンなのか天使なのかはっきりしてくれ!両方だよバカ!! 神様はなんつーものを生み出しちまったんだろうな。 ああ……肩甲骨に触ってみてぇ……今触っとかねえとさ、いつか天使の羽が生えてきちまう気がする! 前 次 Text | Top |