01 「5分で着替えます!もう少し待っててくださいね、宍戸さん!」 長太郎が慌てた様子でラケットをカバンに詰め込む。と、押し出されるようにテニスボールがコロンと2つ飛び出してくる。 「おっと」 「おいおい、そんなに焦るな。これ読んでるから大丈夫だ」 テニス雑誌をひらひら振ってみせると長太郎は恥ずかしそうにすみませんと返す。 それでも片づけのスピードは緩まないところが、生真面目というか、なんというか。 つい口端に笑みが浮かびそうになる。 「ったく。ほらよ、ドリンク飲んでいったん落ちつけ」 え?と振り返った長太郎めがけてペットボトルを放り投げる。 「わっ」 「汗かいたんだから、まずはきちんと水分補給」 「宍戸さん、ありがとうございますっ」 パァッと満開の花のように笑う長太郎。 俺は慌てて雑誌を開き直した。 やべえ。 今の笑顔、写真に収めてB1サイズのポスターに引き延ばしてベット上の天井に貼っておきたいぜ……。 ――あ、わりぃわりぃ。 いきなり妄想全開過ぎたよな。 これでピンと来ただろうが、改めて言わせてもらおうか。 俺は長太郎が好きである。 大・大・大好きだ!! 詳しく言うと、長太郎に関することならなんでも知りたい、収集したいと思ってしまう、鳳長太郎の熱狂的なファンだ。 恋? いやいや。 分かるかなー。 愛するひとつの物事に熱中する――これは男のロマンなんだ。 ほら、アイドルの追っかけとか、バイク好き野郎とか、はたまたスイーツ男子とかそんなのと一緒。同類さ。 長太郎の優しくおおらかな心、愛嬌のある性格、賢い頭脳、豊かな感性、容姿の美しさ、肉体の逞しさ――そのすべてに憧れ、魅了されてしまったわけだ。 しかし、同じ年頃の女子がそう思うならともかく、無骨で硬派なテニス男子として通っている(はずの)俺がそんなことをおおっぴらに言えるわけがない。 なのでしかたなく、周囲にも長太郎本人にも不審に思われないよう、こうして脳内妄想をフル稼働させ、ひっそり長太郎を堪能して過ごしていた。 前 次 Text | Top |