◇誕生日 | ナノ



差出人は夜の淵に7

俺は首を横に振ることしかできなかった。
鳳は少し身体を下げると、俺の脚からズボンを抜き取った。
また覆いかぶさられて、キスとともに身体を弄られはじめたが、俺はパニックを起こして、どんどん抵抗を弱めてしまった。
頭では逃げようと思っているのに、身体は…下半身はわずかに反応していた。

「宍戸さん…その気になってきた?」
「お、俺、そんなつもり、ない」
「本当に?」

クスクス笑いながら鳳が尋ねてくる。

「男は興奮したらすぐ分かるから便利ですよね」
「んっ…」
「宍戸さんはノンケなんですね。分かってたけど」
「そうだ、よ。だから、無理だって」

何度も鳳の下から逃れようとしたが、力の差がありすぎて、すべてがもがくだけに終わってしまう。

「俺ね、どっちかというと、物静かで綺麗なかんじの人がタイプなんですよ。前の人もそうだった。それなのに、なんでかな……宍戸さんにひと目ぼれしたかもしれません」
「……俺は、友達になれると、思った。なのに、あっ」

鳳が、宍戸のものを下着越しにきゅっと掴んだ。

「嬉しい」

なにか鳳の中のスイッチを押してしまったのだろうか。
また唇を塞がれると、今度は容赦なかった。歯の裏側を舌が這うと、腰が浮いた。
体中にキスされて、気付くとワイシャツが胸の上でぐしゃぐしゃに丸まっていた。
いけないと思いつつ、頭がボーッとしてくる。
だから、鳳の指が尻の狭間に触れてきた時も、一瞬、反応が遅れた。

「――……うっ、うわあ!やめろっ!」
「宍戸さん、大丈夫だから」
「大丈夫じゃねぇよっ。触んな!」

一度叫ぶと、ようやくのどの奥に溜めてきた思いが解放された。
起きあがると、迫ってくる鳳を押しのけて、距離を取る。

「怖いのは最初だけですよ」
「ビビってなんかねーよ!そんなこと俺はできないって言ってんだバカ!」
「…宍戸さん、落ち着いて」
「馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえ。俺はホモじゃねえんだ!!」
「………」

肩で息をしながら、何も考えずに叫んで、あとからハッとした。
鳳はまっすぐ俺を見つめて、微笑んでいる。

「最初は違和感しかないかもしれない。…でも、好きな人と触れあえるって、男と女でも、男と男でも、変わらないですよ。幸せな気持ちになれるんです」
「………ごめん。鳳さんを否定するつもりは…」
「長太郎って呼んで下さいって言ってるじゃないですか。俺も急ぎすぎました」

なんて物腰が柔らかくて穏やかなんだろう。
何度か開いてしまった例の手紙だって、今考えると優しい言葉ばかりだったじゃないか。
俺は出会ったばかりだというのに、名前しか知らないのに、鳳のことを気に入っていた。
これでゲイじゃなければ100点満点と言いたいくらいに。

「……長太郎、ごめん」
「ふふ。嬉しいです。だからって、ここでやめないですけどね」
「え」
「男同士は最初が肝心なんですよ」

鳳は俺をベットへ引きずり倒すと、また愛撫を再開した。
やっぱりコイツのこと、俺は気に入ってなんかない。今度こそ、殴って止めてやる。
しかし、決意した俺に反して、鳳は今度は尻に触れようとはせず、ひたすら高ぶらせるように身体に触れてきた。
そうされると、一度煽られた身体は抵抗しようにもできなかった。
目を閉じたって男に触れられている感触は消せないのに、俺は確かに快感を得ていた。
何度も何度も、出そうになる声を我慢した。けれど吐きだす息や、表情まではコントロールできない。鳳は嬉しそうに顔を綻ばせ、また、興奮したように俺を見下ろしてきた。

「ちょ、長太、郎…」
「イきたくなってきた?じゃあ、そろそろ…」

鳳は、いつの間にやらがに股にさせた俺の腰と自分の腰をくっつけると、立ち上がったお互いのものを片手で一緒に握りこんだ。
同性の手なのに、他人のものだと思うと、自慰の時とは比べ物にならない刺激が生まれる。

「あ、な…、これ、あっ」
「宍戸さん。宍戸さん…」

鳳の腰が動くたび、押し寄せる快感を抑えられなくなる。
初めての感覚に、恥ずかしいことに俺はすぐ達してしまった。
やがて鳳も射精すると、腹や胸に白濁とした飛沫がとんだ。
自分のなんて汚いとしか思ったことが無いのに、俺はそれを受けとめたことに、不思議と充足感を覚えていた。





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