差出人は夜の淵に6 タクシーから降りた鳳は、すたすたと歩き出す。 一方の俺は青ざめながら立ち竦んだ。 「…ホ、ホテル…?」 俺は受付に行ってしまった鳳を追いかけて腕を掴んだ。 「ちょ、ちょっと、2軒目は…?」 「え?ああ、部屋でなにか頼みましょうか。好きなんですね、お酒」 「いや、そうじゃなくて」 鳳はさっさと部屋の鍵を受け取って、エレベーターの方へ行ってしまう。 男同士で入るのに、何も咎められない。 もう一歩たりとも中へ進みたくなかったが、従業員の前で言い争うのも気が引けて、とりあえず前を行く鳳についていくしかなかった。 状況がうまく飲み込めない。 部屋でゆっくり寛ぎながら飲み直そうということか? いや、ここは明らかにそういった目的のためのホテル…。 そもそも鳳は失恋したと言って泣いていたではないか。 違う違う。第一、俺も鳳も男だ。男同士だ。 まずいと思いながらも、ドアを開いた鳳に促されて、部屋へ入った。 カチャリと扉の閉まる音が響いた途端、一気に動悸が増した。 「あの、鳳さん」 振り返ると、また抱きしめられた。 「長太郎って、呼んで下さい」 「……」 囁かれた声に硬直した。 間違いない。鳳の目的は酒を飲むことじゃない。 そういえば元恋人が女だなんて、鳳は一言も言っていないじゃないか。 ストーカーは間違いだったけど、ゲイなのは本当だったんだ。 固まっているあいだに鳳が上着を脱いだ。そしてネクタイを緩めながら、冷蔵庫から缶ビールを出して俺のもとへ戻ってきた。 「あ、の、鳳さ……」 声が変にのどに絡んだ。 鳳は俺をベットの淵に座らせると、自分も隣に座って、缶ビールを開けて渡してきた。 大丈夫だ。鳳はそこまで酔ってない。話せばわかる。 平常心になろうと、俺は必死だった。 「シャワー行きますか」 「……シャワーは、いい、です。…あのっ、」 意を決して顔を上げると、顎を掴まれて、キスされた。 手の力が抜けて、持っていた缶を落としてしまった。 「ああ、宍戸さんたら。ズボン濡れちゃいましたよ」 「……あっ、ふ、拭くものっ…」 鳳は微笑むと、落ちたビールを拾い、俺の後ろにあるティッシュを2、3枚取ってくれた。 今キスしやがっただろと責めたいはずなのに、もう、訳がわからなくなるほど緊張していた。 「脱いで」 「っへ!?なん、で」 「ズボン乾かさないと」 「あ…そ、だけどっ。むむむ、む、無理…!」 「じゃあ脱がすよ」 やめろと言ったのに、鳳は俺の身体をベットに押し倒した。 そしてまたキス。肩を押し返したら、今度は両手をシーツに縫い付けられてしまった。 分かっていたけど、鳳は俺より頭一つ分くらい背が高いし、肩幅も広い。力では敵わず、息継ぎの合間にベルトを外され、膝のところまでズボンを引き摺り下ろされてしまった。 肌蹴た太ももに鳳の手のひらが這っていく。 いざとなったら殴ってでも止めようとずっと考えていたのに、完全にタイミングを失っている。 「脚キレイですね」 笑みを浮かべる鳳の首でクロスが揺れる。 前 次 Text | Top |