◇誕生日 | ナノ



差出人は夜の淵に6

タクシーから降りた鳳は、すたすたと歩き出す。
一方の俺は青ざめながら立ち竦んだ。

「…ホ、ホテル…?」

俺は受付に行ってしまった鳳を追いかけて腕を掴んだ。

「ちょ、ちょっと、2軒目は…?」
「え?ああ、部屋でなにか頼みましょうか。好きなんですね、お酒」
「いや、そうじゃなくて」

鳳はさっさと部屋の鍵を受け取って、エレベーターの方へ行ってしまう。
男同士で入るのに、何も咎められない。
もう一歩たりとも中へ進みたくなかったが、従業員の前で言い争うのも気が引けて、とりあえず前を行く鳳についていくしかなかった。

状況がうまく飲み込めない。
部屋でゆっくり寛ぎながら飲み直そうということか?
いや、ここは明らかにそういった目的のためのホテル…。
そもそも鳳は失恋したと言って泣いていたではないか。
違う違う。第一、俺も鳳も男だ。男同士だ。

まずいと思いながらも、ドアを開いた鳳に促されて、部屋へ入った。
カチャリと扉の閉まる音が響いた途端、一気に動悸が増した。

「あの、鳳さん」

振り返ると、また抱きしめられた。

「長太郎って、呼んで下さい」
「……」

囁かれた声に硬直した。
間違いない。鳳の目的は酒を飲むことじゃない。
そういえば元恋人が女だなんて、鳳は一言も言っていないじゃないか。
ストーカーは間違いだったけど、ゲイなのは本当だったんだ。
固まっているあいだに鳳が上着を脱いだ。そしてネクタイを緩めながら、冷蔵庫から缶ビールを出して俺のもとへ戻ってきた。

「あ、の、鳳さ……」

声が変にのどに絡んだ。
鳳は俺をベットの淵に座らせると、自分も隣に座って、缶ビールを開けて渡してきた。
大丈夫だ。鳳はそこまで酔ってない。話せばわかる。
平常心になろうと、俺は必死だった。

「シャワー行きますか」
「……シャワーは、いい、です。…あのっ、」

意を決して顔を上げると、顎を掴まれて、キスされた。
手の力が抜けて、持っていた缶を落としてしまった。

「ああ、宍戸さんたら。ズボン濡れちゃいましたよ」
「……あっ、ふ、拭くものっ…」

鳳は微笑むと、落ちたビールを拾い、俺の後ろにあるティッシュを2、3枚取ってくれた。
今キスしやがっただろと責めたいはずなのに、もう、訳がわからなくなるほど緊張していた。

「脱いで」
「っへ!?なん、で」
「ズボン乾かさないと」
「あ…そ、だけどっ。むむむ、む、無理…!」
「じゃあ脱がすよ」

やめろと言ったのに、鳳は俺の身体をベットに押し倒した。
そしてまたキス。肩を押し返したら、今度は両手をシーツに縫い付けられてしまった。
分かっていたけど、鳳は俺より頭一つ分くらい背が高いし、肩幅も広い。力では敵わず、息継ぎの合間にベルトを外され、膝のところまでズボンを引き摺り下ろされてしまった。
肌蹴た太ももに鳳の手のひらが這っていく。
いざとなったら殴ってでも止めようとずっと考えていたのに、完全にタイミングを失っている。

「脚キレイですね」

笑みを浮かべる鳳の首でクロスが揺れる。





Text | Top