ギブアンドテイク 「あのさぁ!勝手に鳳に話さないでよ!」 ジローの奴が怒ってんのは珍しい。 あいつは大抵、眠たげな目をしているか、寝ているか、寝惚けているかのどれかだ。 それ以外はへらへらしている。 だから怒るのは希少だ。 「あ?何」 こんなジローを見て驚かないのは俺と宍戸くらいなもんか。 「小学校の時!3人で校舎の裏に思い出の印描いたこと!」 あれなら憶えている。 何かの節目でもない、なんてことない日にジローの突然の思い付きに俺達は学校に招集された。 そして初等部の校舎裏の壁の隅に3人の名前を刻み付けた。 下らねえと思いつつ渋々それに倣ったが、やり遂げた時の満足気なあいつらの顔に悪くねぇなと思ってしまった……。 「あー、あれか。……懐かしいよな。急に思い出してさ。長太郎の奴、いいですねーとか言ってたぜ」 怒るジローとは反対に、何が可笑しいのかにやつく宍戸。 おまえ、あの時「一番でかく名前書いたぜ!」とか小せぇ事でえばってただろうが。 それの方がずっと可笑しいぜ。 「バラしてんじゃねーよ」 「別に隠してた訳じゃないじゃん。何怒ってんの?」 徐々に雲行きが怪しくなる二人の会話。 ………またか。 「プライドの侵略なんだよ!バカ!」 「俺がいつジローのプライドを侵したよ!?」 「プライバシーの侵害だ。ジロー、宍戸」 「とにかく!関係ねえ奴にしゃべんな!!」 それは禁句だろうが。 「ああ!?長太郎が関係ねえだと!?」 宍戸は自分意外が鳳を卑下すると嫌悪を露わにする。 それは寵愛と言えるほどの独占欲だ。 「アカの他人じゃん!」 「おまえ、後輩に向かってよくそんなひでえこと言えるな!」 「俺らがあいつの顔色伺うことねぇだろ。なんてったって、先輩だしぃ〜」 「んだと……!?」 宍戸がジローに掴みかかった。 ジローは思いっきりガンを飛ばしながら宍戸の髪を掴んだ。 バカな奴等だ。 何度同じことを繰り返せば分かるんだ。 それと似たようなことを先月もやってなかったか? 確か宍戸の誕生日に遊ぶ、遊ばないで口論の末、取っ組み合いに発展した。 毎度毎度似たようなパターンだ。 ジローが妙に俺と宍戸を囲いたがり、宍戸は鳳にべったり。 ジローが俺と宍戸の3人で居たがるのは今に始まったことじゃねぇが、宍戸が後輩に振り回されるようになったのはここ最近の話だ。 夏まではそうでもなかった。だが宍戸のレギュラー落ちをきっかけに奴等は急調に親密度を上げていった。 今じゃ四六時中一緒にいるんじゃねぇか? よく飽きねえな。 なあ?樺地。 「いい加減にしておけ」 ソファにくつろいだままに下らないケンカの仲裁に入ってやった。 そろそろ頃合いだろう。 「んだよ、あとべ!ジャマすんな」 「落ち着け、ジロー。宍戸はバカなんだ。許してやれ」 「テメー!跡部コラァ!!」 逆上する宍戸よりもジローをなだめる方がこの場を収める効率が良い。 「ジローも向日に同じことしてなかったか?」 「あ?」 ジローは宍戸に向けていた視線をそのままに俺を睨んだ。 「小4の夏休みに3人で俺様の家で遊んだ時に起こった珍事件を話したろ?」 「………あ、」 「小4の夏休み……?なんかあったか?」 眉間にしわを寄せたまま、憶えてもいない記憶を辿る宍戸に教えてやった。 思い出さないままの方が良かったんじゃねぇのか? 「庭に放ったヘラクレスオオカブトに興奮して虫取り網を持ってはしゃぎ回った挙句、庭中で一番でかい木から落ちてズボンのケツを破った赤っ恥野郎がいただろ?宍戸」 「――な!?バ、てめ!!」 また宍戸が大騒ぎし始めたところにタイミング良く鳳がやって来た。 俺様に突っかかる宍戸をあれこれとなだめすかして、短時間のうちにコートへ連れて行ってしまった。 面倒臭ぇお守もこれで片付いた。 そう思い安心していると、ジローがボソッと呟いた。 「宍戸はバカだよ」 鳳が宍戸をあやしている間にジローも熱が冷めたのか、金髪に後ろ手を組んでつまらなそうな顔でソファに座っていた。 「でも、俺らもバカだよね」 「アーン?」 「……先週さ、最高級跡部スポーツジムに招待されたってのに断ってどっかの後輩と遊ぶの優先させた宍戸と大喧嘩した跡部と、今日の俺と。みんなバーカ」 忘れていたわけじゃねえ。 あれも一緒だって言うのか? ジローのはジェラシーだろ。 俺は違う。 俺様は。 ジローがパッと両手で顔を覆った。 「亮ちゃんがお嫁に行ったら、俺」 泣いちゃう。 楽しそうに朗らかにそう言うとまた顔を上げた。 「お父様。涙、我慢できる?」 にっこにこと笑いやがって。 見透かしているつもりなのか? 「ハン。そんな奴を箱入りにした憶えはねえな」 怒って笑って。 怒って笑って。 俺達には見えない何かが循環している。 End. (Happy Birthday! Keigo Atobe) 前 次 Text | Top |