◇誕生日 | ナノ



かわいいビックバード 2

「……あ?」

気がつくと滝は叫んでいた。
いつも超然と構えている滝にしては、大袈裟なくらい慌てた大きな声。
宍戸も目を丸くしていた。

「……鳳ってね」

落ち着いて一呼吸吐いてからその名を呼ぶと、隣の後輩がびくりと肩を揺らした。
宍戸は無関係な名を出されて不満なのか、眉間にしわを刻む。

「ピアノ。上手いんだって」
「……だから?」

宍戸は理解できない言葉に苛々と口調を強めた。
鳳も滝の発言に顔に疑問符を浮かべていた。

「だから器用なの。試しに取ってもらったら?」
「………別にいい。切れば、済むし」

宍戸が言葉を濁した。
滝はソファに近づきながら、飄々と詭弁を振るい出す。

「なぁんだ。それじゃ宍戸は不戦敗だな。早々に戦線離脱ってわけだ」
「……何がだよ……?」

宍戸は怪訝に滝を見上げた。

「男子テニス部正レギュラーで一番綺麗な髪なのは……やっぱり俺だね。岳人も髪染めたりして傷んでるらしいし」

屈みこみ宍戸の黒髪を一束掬うと、わざとらしく丁寧に枯れ葉を取ってやる。

「宍戸は自分で滅茶苦茶にしちゃうし。あー、ダサ」
「……」
「あれ?鳳もう食べたんだ。帰ろうか。意固地な先輩は放っておいていいよ」
「あ……、……はい」

鳳はまだ何か言いたそうにしていたが、滝は構うことなく帰り支度を始めた。
先輩命令に逆らえるわけがなく、鳳もジャージのチャックを下した。

しばらくするとロッカーを向く二人の背後でカタン、と金属音がした。
何もかも予想通り。

「オオトリ、」
「っはい」

鳳は上擦った声を上げ、シャツを捲る手を止めた。

「手、貸せ」

……いくら後輩相手だからって、もう少し愛想のある態度を取れないものか。
などと、宍戸には無謀なことを望んでしまった。
だけどこのままで良いのかもしれない。

「……はい!」

受け止める側がこれ以上ないくらい嬉しそうに了解したから。

「………じゃあ俺、帰るね。お疲れ。宍戸、鳳」




去り際に見た後輩の表情は本当に可愛かった。
見ているこちらがこそばゆいくらいに幸福感を滲ませ、ほんのり頬を染めて。
緊張した指先が、流れるしなやかな黒糸へそっと差し伸べられた。




End.

(Happy Birthday! Haginosuke Taki)





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