かわいいビックバード 2 「……あ?」 気がつくと滝は叫んでいた。 いつも超然と構えている滝にしては、大袈裟なくらい慌てた大きな声。 宍戸も目を丸くしていた。 「……鳳ってね」 落ち着いて一呼吸吐いてからその名を呼ぶと、隣の後輩がびくりと肩を揺らした。 宍戸は無関係な名を出されて不満なのか、眉間にしわを刻む。 「ピアノ。上手いんだって」 「……だから?」 宍戸は理解できない言葉に苛々と口調を強めた。 鳳も滝の発言に顔に疑問符を浮かべていた。 「だから器用なの。試しに取ってもらったら?」 「………別にいい。切れば、済むし」 宍戸が言葉を濁した。 滝はソファに近づきながら、飄々と詭弁を振るい出す。 「なぁんだ。それじゃ宍戸は不戦敗だな。早々に戦線離脱ってわけだ」 「……何がだよ……?」 宍戸は怪訝に滝を見上げた。 「男子テニス部正レギュラーで一番綺麗な髪なのは……やっぱり俺だね。岳人も髪染めたりして傷んでるらしいし」 屈みこみ宍戸の黒髪を一束掬うと、わざとらしく丁寧に枯れ葉を取ってやる。 「宍戸は自分で滅茶苦茶にしちゃうし。あー、ダサ」 「……」 「あれ?鳳もう食べたんだ。帰ろうか。意固地な先輩は放っておいていいよ」 「あ……、……はい」 鳳はまだ何か言いたそうにしていたが、滝は構うことなく帰り支度を始めた。 先輩命令に逆らえるわけがなく、鳳もジャージのチャックを下した。 しばらくするとロッカーを向く二人の背後でカタン、と金属音がした。 何もかも予想通り。 「オオトリ、」 「っはい」 鳳は上擦った声を上げ、シャツを捲る手を止めた。 「手、貸せ」 ……いくら後輩相手だからって、もう少し愛想のある態度を取れないものか。 などと、宍戸には無謀なことを望んでしまった。 だけどこのままで良いのかもしれない。 「……はい!」 受け止める側がこれ以上ないくらい嬉しそうに了解したから。 「………じゃあ俺、帰るね。お疲れ。宍戸、鳳」 去り際に見た後輩の表情は本当に可愛かった。 見ているこちらがこそばゆいくらいに幸福感を滲ませ、ほんのり頬を染めて。 緊張した指先が、流れるしなやかな黒糸へそっと差し伸べられた。 End. (Happy Birthday! Haginosuke Taki) 前 次 Text | Top |