◇誕生日 | ナノ



雪とセロハン紙 2







「テメェ、憶えてろよ!……次もぶっ潰してやる!!」

鳳はニヤニヤしている。

「うん、土曜日な。俺も勝たせてもらうよ。宍戸さんが見に来てくれるし………あれ?俺のドリンク……あれ?」

鳳はがさごそとロッカーをかき回し始めた。

「なくしたのかよ、バカめ。ロッカーをきちんと掃除しておかないからだ」
「えー?さっきまであったのに…………あーっ!宍戸さん!?何飲んでるんスか!」
「あ?のど渇いたから」

宍戸は空になったペットボトルを鳳に投げて寄越した。

「俺のが……っ!」

今度は日吉がニヤニヤした。

「良かったな。恩ある先輩に貢献できて」
「………」

恨みがましい目を向ける鳳に見せつけるようにドリンクを飲んでやった。
鳳は、引退したというのに部活に付き合ってくれる大好きな先輩に文句を言うのは諦め着替えを再開した。
日吉は猪口才な同輩に少しばかり下剋上できて、屈辱的だった気分が晴れた。

「……あっ、日吉。靴ひも解けてるよ?」
「ん?」

日吉が足元を見た瞬間、手に持っていたドリンクがパッと奪われた。

「へっへー。ちょっと分けてっ」
「テメェ、二度も同じ手を!」

部活が始まる前にいつも確認しているのだ。靴ひもはきちんと結ばれていた。
鳳は奪ったドリンクを一口飲むと、嘘臭い爽やかな笑顔を浮かべた。

「やだなぁ。一度目は日吉が勝手に間違えたんだろ?」
「ああ言えばこう言う……!」

鳳はゴクゴクとのどを潤すと日吉の届く位置に手を下した。
日吉は油断したでくの坊にすかさず手刀をお見舞いして、その手からドリンクを奪回した。

「痛っ!」
「フン。古武術を甘く見るとこうなるんだ」
「もう。ケチ!」
「おまえになんと思われようと構わねぇな」
「………そのドリンク、あんまりおいしくない」
「だったら飲むな!」
「ごちそーさまでしたぁ」
「………」

日吉はドリンクを鞄に投げ入れた。

(本当にこいつとは気が合わねぇ……!)

ジャージも今日ばかりはきちんと畳まずに適当に詰め込み、代わりに取り出したタオルで大雑把に体を拭いた。
気が合わない、のに。

(気がつけば一緒にいる。何故だ。畜生。苛々が治まらない。鳳の奴め)

今はこんなに憎んでいるのに、明日になれば何もなかったように挨拶を交わして、部活をして、会話して、またケンカして、同じことを飽きもせずに繰り返して―――。

(ああ、苛々が治まらない!)

鳳も汗だくのジャージとシャツを脱ぎ、タオルを出そうと鞄を探った。

「アレ?俺のタオル……タオル………あーっ!宍戸さんの肩に!どうして!?」
「ん?寒かったから」

鳳は宍戸のもとへ駆け寄った。
それはもう嬉しそうに。
日吉はそんな鳳に冷やかな視線を送り、そのままなんとなくソファを覗いた。
溜め息が出る。

「宍戸先輩……、アンタのマフラーすぐそこにあるじゃないですか」

寒いわけがない。
タオルを奪う意味が分からない。

「あ、本当だっ。ほらぁ宍戸さん。寒いならコレして下さいね?」

鳳はソファの横に置いてあるマフラーを掴み、ふわりと宍戸の首に巻いた。

「わ、宍戸さん似合いますねー!……そんな色も似合うんですねぇ……。かっこいい」

マフラーの形を整えながら、緩みきった顔で宍戸を褒め称える鳳。
日吉は部室の寒さのせいなのか、臆面もなく先輩に好意をぶつける鳳のせいなのか、ほんの少し鳥肌が立った。
宍戸は背もたれに腕を回し脚も組んでふんぞり返ったまま言った。

「いいから早く服着ろって。体冷やすぞ」
「あ、はいっ。うう、部室寒いです」

鳳は冷えた汗を拭うと急いでシャツに腕を通した。またニヤニヤしている。
からかわれてるのに嬉しそうにして、変な奴だ。
……バカな奴。
日吉はロッカーを閉めると言った。

「早くしろ。三分以内に終わらなければ鍵当番交代だ」
「はぁ!?」

鳳はあんぐりと口を開け、ボタンを留める手が一瞬止まった。

「おし、若。カウントスタートだ」

宍戸が指をパチンと鳴らす。

「言われなくても」

どこの先輩の真似だ、と口には出さなかった。

「なんで宍戸さんまで!」

そう言いつつも大急ぎで帰り支度をする鳳。
だが、もう使わないタオルを何度も出したり、制汗スプレーを落としたりとあたふたしすぎて無駄な動きが非常に多い。
日吉と宍戸は部室の壁に掛けられた時計の針と面白おかしい動きをする鳳を見比べてニヤニヤした。

「長太郎おっせー!」
「1分30秒前だ」
「えっ、早くないか?ちゃんと数えてるの日吉。あれ?ネクタイ……あれ、ネクタイが……あーっ!宍戸さんの首!いつのまに?どうしてっ!?」
「ああ。今日はネクタイしたい気分だったから」

日吉は時計から宍戸の首へなんとなく視線を移した。
こちらも負けじと面白おかしい恰好だ。
もはや理解不能。

「……二つも重ねてネクタイしたい気分ってどんな気分ですか、宍戸先輩……」




End.

(Happy Birthday! Wakashi Hiyoshi)





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