金の箱庭 2 寝がえりを打つと、頬にふわふわしたものが触れた。 「…い、……ロー……」 不思議に思い瞼を閉じたままそこを撫でてみる。 すると、あるはずの芝生の感触がない。 「おい、ジロー!」 少々混乱していたジローの意識は、聞き慣れた幼馴染の声に覚醒した。 「んぁ……?」 「起きろっつの。急に寝るなよ」 「……いまれんしゅうする」 片手で目をこすりながら、芝生に転がしたはずのラケットを探る。しかし手のひらはまたもやふんわりした心地良い感触を掴んだ。 なにか、おかしい。 「練習?……ったく、訳分かんねえこと言ってないで立てよ」 ほら起きろと言って手を差し伸べてくる宍戸を見上げ――ジローの視界に入ったもの。 「……………何、コレ……」 どこまでも続く白い大地。 猫型ロボットでもいなければ人類には到底行きつけない場所。 瞼を開けると、そこは雲の上だった。 「つか早く行こうぜ。寝るならついて来なくていいし」 宍戸は現状に疑問を抱かないらしい。ジローをむりやり引っ張り起こすと背を向けて先を歩き出した。 「わ……宍戸!?」 その背中を見たジローは仰天した。思わず叫ぶとドスンと尻もちをついてしまう。 「さっきからなんだよ。急いでんだから、」 「せっ、せせせ背中のソレ何!?」 「背中?」 宍戸はきょとんとした顔で、肩甲骨の辺りから伸びている真っ白な「それ」をふわりと一度羽ばたかせた。 「異常ナシだけど」 「アリだろ!」 鳥の羽を背から生やし、まるで聖書から飛び出してきたような白い衣服をまとった宍戸にジローはすかざす突っ込みを入れる。が、不意に自分の背にも何か嫌な感覚を覚えた。 「俺もかよ!同じ格好!うわ、背中の動いた……!?」 ジローが驚くと白い双翼もパタパタと慌てふためく動作をする。綺麗な見目とは相反して、自分の意思が筒抜けのそれはもの凄く気味が悪い。 「と、取って!早く取って宍戸!」 「はあ?無理だろ」 あり得ない事態だというのに、宍戸は涙目で助けを乞うジローに呆れたような溜息を吐いた。 「まだ寝惚けてんのかよ」 「寝惚けてなんかないって。非常事態だろこれ」 「寝惚けてる奴は皆そう言う。寝惚けてるって気付いてねぇんだからよ」 「だから寝惚けてないって。宍戸だってさっきまでテニス……」 ジローはそこではたと気が付いた。 「てにす?なんだそれ?」 雲の上にいて白い羽が生えている、なんて。 そんな。 「えっと……」 そんなのはどう考えても夢じゃないか。 これは夢だ。現実の自分は中学生で、テニスと寝ることに毎日忙しいのだった。 「寝惚けてんじゃなくて……寝てん、のか」 それならばこれまでのおかしなことも飲み込める。 ジローがホッと胸をなでおろすと、羽も安心したようにぺたんと垂れた。 Next... 前 次 Text | Top |