「ヒヨの宅急便」 ヒヨシ家は代々魔法を生業とした家系でした。 ワカシも今年14歳を迎え、独り立ちをして一人前の魔法使いとなるために、家を出ました。 お父さんの携帯ラジオと、黒猫のシシド。それから、必要最低限の物を詰めただけのショルダーバックを肩に掛けるとワカシはほうきに乗って旅立ちました。 ワカシが一人暮らしを決めたのは海のみえる街でした。 身重の奥さんに代わってパン屋の店番をすると、部屋・食事代がタダになるという素敵な居候先も見つけました。なによりもパン屋の夫婦二人はとても優しい人達でした(でもワカシは米派でした) 「お滝さん。俺、宅急便をすることにしました」 ワカシは魔法使いでしたが、ホウキに乗ること以外はあまり得意ではなかったのでした。 「それはいいね」 「ウス」 「空飛ぶ宅急便かぁ…夢があるねぇ」 「ウス」 二人に褒められて(?)ワカシはこの思いつきがきっとうまくいくような気がしました。 ところが。 仕事というのは初めからうまくいくものではありません。 金欠に陥った一人と一匹は買い出しに立ち寄ったスーパーマーケットで現実を突き付けられました。 「ハァ……しばらくはぬれせんべいだけで暮らすしかないな」 ワカシが溜め息をつくとシシドは渋い顔で言いました。 「俺、パンケーキが好きだぜ」 「ネコは気楽でいいですね…」 「だから、遠回しにパンケーキなら節約生活できるぜって言ってんの!金欠なのにお高い煎餅屋でぬれせん箱買いしようとするおまえに言われたかねぇよバカ!」 「あそこの店のは味も食感も秀逸なんですよ。フン、猫の舌じゃ分からないんですかね?」 「あんだと?」 二人が対立していた、そのときです。 「あーっ!魔ー女ー子ぉは〜ん」 もう一つの問題がやってきました。 「あ?…おい、あの眼鏡野郎また来たぜ?」 「チッ」 赤と白の派手な横縞のシャツ。丸いレンズの奥から嬉しそうな視線を向けて、ユウシが車からこちらに手を振っています。 「なぁ、なぁ!かわええやろ?本当に真っ黒い服着てるんやで」 すると彼の友人らしい派手な髪色の男の子達も囃子立て始めました。 「かわいいじゃん、ユウシが目つけたにしてはな」 「アホか。いっつも俺が見つけた子は脚が綺麗で美人やん」 「おおっ、マジかわEーッ!その猫」 「猫の方かいな!いやいやこの黒いワンピースと赤いリボン見て!魔女っぽいやん!」 ますますワカシの話をしようとするユウシ。 しかしワカシはそういった軽いノリの同世代の子は大嫌いでした。親からおこずかいを貰って遊び呆けているようにしか見えません。 一方のワカシは一人で暮らして、仕事もしています。そんな苦労を微塵も知らないで、好奇心だけで近寄ってくるなんて。 そう思うと腹が立ってきました。 ワカシは男の子達を避けるように踵を返しました。 「あっ、魔女子はん」 「ぎゃはー!ユウシ振られてやんのー!!」 「ダッセェC〜!」 聞こえてくる声も煩わしくて、ワカシは早歩きして家へ帰りました。 End. その後、黒猫シシドさんは白猫チョタといちゃラブ展開です。 2010秋追加しました。 前 次 Text | Top |