◇パラレル | ナノ



傅育 番外編[R-18]


※妄想エロ。病んでる長太郎

















【穢す】


低い呻き声の後、全身を脱力させて鼻を抜けた亮の吐息に鳳は脳の痺れる思いをした。
あどけなさの残る王子が乱れる姿は、普段の様子から想像もつかないほど妖艶で美しい。
眩暈がする。

「……亮様…」

鳳が真下にいる亮へキスを求めると、彼はいやいやと首を振った。

「…長太郎……もう、っあ」

身を屈めた鳳によって繋がった部分から不意に刺激が訪れ、亮は肩を跳ねさせる。

「ん……、…も、やだ」

言葉とは裏腹に熱い内壁が誘うように蠕動を繰り返す。
潤んだ瞳で睨んできたのも最初だけだった。
力ずくで押さえつけ、欲望のまま触れたというのに、亮の肌はすぐに熱くなる。小さな爪を突き立てられても胸を叩いて押し返されても説得力がない。
鳳はそんな所作のひとつひとつに落ち着く間もなく煽られてしまい、同じことを繰り返した。
気付けば夜も深い。
月明かりに照らされた亮の表情は、悲壮ながら艶めいて美しい。
そう形作られた顔で名を呼ばれると堪らく愛しくなる。逃げる唇を捕まえ噛みつき、上あごを舌で嬲ると亮は苦しげに身を捩った。
押し返してくる細い腕を片手でまとめると、鳳は散らばり落ちていた衣服から帯を掴んだ。
弛緩したその両腕を縛り上げて寝台の木柱に括り付けていると、亮が大きく開かれた脚のつま先でシーツを擦っていることにはたと気付く。

「う……ぅ……」

鳳から逃がれるように腰が上方へずれあがる。亮は涙ぐみながらも必死に身体を離そうとしていた。
そんな小さな抵抗で今さら逃げられるわけもないというのに。
鳳は早々と亮を寝台に繋ぎ終えると、そっとその肩を押さえつけた。

「いけません」

冷たく諭す声にも亮は変わらない返事をする。

「長太郎……や、いやだ、……かしく、なる。もう」

同じ反応ばかり返されて、徐々に感覚が鈍っていく。涙の筋が残る赤い目元に、他人事のように可哀想だと思ってしまう。
鳳は、恐ろしいほど膨れ上がる感情をなんとか胸の奥へ押し込めると、亮の髪にできるだけ優しく指を通し、梳いた。
亮はぎゅっと目を閉じ、顔を背ける。怖いのか、憎いのか。けれど絡める指はほどかれない。

「どうして……嫌ならなぜ、毎夜此処へいらっしゃるのですか」

問いかけながら、亮の胸に散る白い残骸を指でゆっくりとなぞった。

「………ん……あ、う……」
拘束した手首が強張り、寝台がかすかに軋む。

「いやだやめろと叫ぶくせに、声と身体はそうじゃない」
「そ、な、こと、な」
「教えて下さい。あなたがこうして此処を訪れてくれる限り、俺は同じことを繰り返してしまう」

どんなに拒絶されても。
愛しくて、憎くて憎くて壊したくなる。
言い終わると鳳は汗をかいた亮の首筋に強く噛みついた。

「あ……!」

歯を立てられた亮は呻いて不自由な四肢を捩る。
もしその手が背中に回されていたら、爪痕を深く残してくれたかもしれない。

「痛い、長太郎っ」

悲鳴を上げる亮の口を手でふさぐと、耳元で囁く。

「俺に大人しくしていて欲しいでしょう?……ならば今はあなたが大人しくして下さい。もうそれしか選択の余地はありません」

泣きながら意味が分からないといったようにかぶりを振る亮は、やはり嫌がりはしても抵抗に逃れる意思がない。
震える膝を高く持ち上げて脚を開かせ、鳳は再び律動を始めた。不意に貫かれた亮の背は弓のように仰け反り、唇からはすぐに濡れた声が溢れ出す。
闇に止めどなく上がる艶めかしい音に、一時と知りながらも独占欲が満たされた。たやすく意のままになる亮に嗜虐的な興奮を覚え、思わず笑い出してしまいそうになる。
鳳は狂気を消すように繰り返し絡みつく亮の内側をまた深く穿った。
愛しい人の身体を感じれば肉欲だけでなく愛情が広がる。自分に溺れている亮の姿に、それ以上溺れてしまうのを止められない。
突き込み続けた細い腰が大きくしなり、白濁を迸らせる。
追いかけるように果てた鳳は、最後に強く強く亮を抱きしめた。




全身が汗で冷えている。
反対に頭は熱く沸き、夢に半身残したままだ。
鳳はもう一度静かに目を閉じると、幻惑を追い出すように現実を思い浮かべる。夢の中で犯している亮を消すことができるのもまた現実で屈託なく笑う亮その人。
矛盾する感情と欲望が身体を彷徨い、ずっと出口を探している。
わずかも望みがなければ鎮めておけたはずだった。
けれど亮はかすかに変わってしまった。薄く色づく頬に、弱く触れる指先に、それらの変化がどれほど力を持っているのかも知らず、子供の無邪気さで振りかざす。
無闇に想いを告げて敬遠されるのは怖い。
亮がもっと気持ちを自覚して、同じだけ想ってくれなければ言葉にすることもできない。
亮はそれだけ、近くて遠い人だった。
いつも傍にいたとしても、二人の間に引かれた線が消えることはない。

憂鬱な目覚めには慣れてしまった。
けれど、いつまで耐えられるのかはもう鳳にも分からなかった。

穢しておきながら、微笑みかけて欲しいなんて。




End.





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