傅育 4 「…ぁ…長太郎、」 首筋から這い上がってくる感覚にはもう限界だった。 身体が熱くなって頭の芯にまでも熱が回ってくる。 上擦った声は我慢しきれないまま漏れていた。 「いかがなさいましたか。先ほどから息が上がっておりますが」 「っ!…て、め」 分かっていてそんなことを言う鳳に、亮は暴れて怒りをあらわにした。 「った…!」 すると動くな、とばかりにうなじを噛まれる。 「申し訳ありません」 どうして鳳は突然こんなことをしたのだろう。いや、今考えても仕方がない。鳳がこの行動をやめることには繋がらない。 誰も助けてはくれない。 いつだって亮のもとへ一番に駆けつけて助けてくれたのは鳳だった。 「イっ、…や……も、やだ…、なんで意地悪ばっかすんだよ…」 亮は堪え切れずにすすり泣くような声を出した。 「……」 するとふと鳳の動きが止まった。 「っ、…やめ、ないと、叫ぶぞ」 そうするつもりはなかった。鳳が我に返って自分を解放してくれたらと思っただけ。 すると亮の首筋に顔を埋めたまま鳳の握力が抜けていき、唇がそっと離れた。 「ではやめます」 「…え…?」 「お部屋へ参りましょう。着替えないと風邪を引いてしまいます」 亮は訳が分からずにうろたえた。 「今、着替えに侍女を呼びますから」 「……」 タオルを渡された亮は自然に微笑む鳳を見て怖いながらも少しだけ安堵した。 いつもの鳳に戻ったようだ。 「私は一度失礼します。これ以上宮殿を汚すわけにはいきませんので。では」 「…っ、待て!」 鳳は静かに振り返り、亮の瞳を見つめた。 「…はい」 亮は睨みつけながら問いただした。 「なんで…あんなこと、したんだ。答えろ」 「………」 鳳が沈黙するほど、また亮の中にあの苛立ちが募りだす。 「答えろ」 「………」 ――思えば、もうずっと以前から。 ――鳳の視線を感じるとわけもなく追い詰められたような気持ちになっていた。 「なんであんなことしたのかって聞いてるんだよ!答えろ!」 叫んだ瞬間、鳳の拳が机に置かれた水差しに叩きつけられた。 「!!」 硝子の割れる甲高い音。 零れた水が床へ飛散した。 鳳は俯き震え、固く握りしめた白い手は赤く切り刻まれ血を滴らせていた。 「……」 亮は目を見開いたまま動けなくなってしまった。 「…早く……気付いて下さい……」 前 次 Text | Top |