傅育 3 「…ほら。こんなふうに襲われたらどうするのですか?」 「…ん…っ」 視界には大理石の壁。 口は鳳の大きな手に塞がれて、身体は背後から押さえ込まれてどうにもできない。 壁に力いっぱいついた手がかえって亮に腕力の差を理解させた。 というよりも、なぜこうなったのかが亮には分からなかった。 動揺してつい先程の会話も焦りに潰される。 鳳は怒っているのか、笑っているのか…? 心臓が乱れてドキドキうるさい。 「亮様」 耳元に鳳の、男にしては柔らかな甘い声が響く。亮は涙腺に熱さを感じながら、背後の鳳にできるだけ顔を向けた。 「…?――んッ!」 耳に痛みが走った。 噛まれた。 「隙有り、です」 「す、隙とかっ…なんだよそれ!痛ぇんだよっ。か、噛むなバカ」 亮は掴まれた手首をジタバタさせて叫んだ。 つもりだったが、その声は語尾に向かって弱り消失してしまった。ジンジンと痺れる耳たぶに全神経が集中している。 「もう少し周りをよく見たらいかがですか。…未然に防げたかもしれませんのに」 鳳がふ、と薄く笑うと亮の身体が小さく竦んだ。 やめろと命令しなければ。 頭では分かっているのに声が出ない。 「私の…世話役としての意見を言わせていただくと、」 「…っ」 鳳は亮の身体を反転させると顎を持ち上げた。 「優し過ぎるのもどうかと思います」 「…!」 顔が唇が近づいてくる。 キスされる、思った瞬間亮はぎゅっと目を閉じていた。 しかし数秒後、どういうわけか服の襟をぐい、と掴まれ、すぐさま首の付け根に固い歯の感触、刺激が襲った。 「くぅ……やめ…イタいちょうたろっ…!」 肩に食い込んでいた歯は亮が呻くとすぐに解けた。だが安心したのもつかの間、続いてそこを口で強く吸われた。 「…っ、うぁ…」 唇と肌の隙間から水音が漏れる。心臓が大きくざわめいた。 「やだそれっ……やだ…っ…やだ、いやだ…っ」 亮が必死に抵抗すると鳳の口が僅かに離れた。 「手遅れです、もう」 鳳は自分が痛め付けたその箇所を癒すかのように亮の肌を舌先で静かになぞった。 亮の知らない、恐ろしい感覚。 裡に熱がこもる。 前 次 Text | Top |