◇パラレル | ナノ



傅育 2


耳元を声が撫でるように響き、亮は何かが背筋をぞくりと走るのを感じた。

「……っ、今のはっ、仕方なく、だ!」

なんとか強がりを返したものの、鳳には見透かしたような笑みを向けられた。
鳳はもう言い合い(亮はそう思っている)をするつもりはないのか無言のまま岸へ向かって戻り始めた。

(なんなんだ…っ)

亮はこのところ訳もなく苛つくことが多くなった。
その苛つきは突然胸の奥に湧き立ち、どこかへ捨ててしまいたくなる一方で、このまま内に大切に閉じ込めておきたくなったりする。
体は大人へと成長しているはずなのに、心は違うのだろうか。
感情の起伏が激しくて、我侭で、自分本位で。
さらには一番側にいる身近な大人、鳳が冷静沈着な男と来たら鬱気にならずにいられない。




「…おまえもガキだった頃があったとは思えねえよ…」

宮へ戻る途中、独りごとのように呟くと、微かに鳳の耳に届いた。

「私もまだまだ半人前ですよ」
「いっつもしれっとした顔してるじゃん」
「そんなことありませんよ。買いかぶりすぎです」
「おまえの心底焦った顔とか切羽詰った顔、見てみたいなぁ」

亮はくくっと笑った。

「今日も亮様が池へ飛び込んだ時、とても慌てましたよ」
「うーん。もっと、あれよりすっげーの」

鳳がぴたりと足を止めた気配がした。

「…?…長たろ、」
「亮様は自分の首を締めている自覚が足りない」

すごい力で壁際に押し付けられて体の自由を奪われた。
叫びたいほど驚いているのに、塞がれた口からは声が出ない。

水浸しの大理石の床が悲鳴を上げた。





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