傅育 2 耳元を声が撫でるように響き、亮は何かが背筋をぞくりと走るのを感じた。 「……っ、今のはっ、仕方なく、だ!」 なんとか強がりを返したものの、鳳には見透かしたような笑みを向けられた。 鳳はもう言い合い(亮はそう思っている)をするつもりはないのか無言のまま岸へ向かって戻り始めた。 (なんなんだ…っ) 亮はこのところ訳もなく苛つくことが多くなった。 その苛つきは突然胸の奥に湧き立ち、どこかへ捨ててしまいたくなる一方で、このまま内に大切に閉じ込めておきたくなったりする。 体は大人へと成長しているはずなのに、心は違うのだろうか。 感情の起伏が激しくて、我侭で、自分本位で。 さらには一番側にいる身近な大人、鳳が冷静沈着な男と来たら鬱気にならずにいられない。 「…おまえもガキだった頃があったとは思えねえよ…」 宮へ戻る途中、独りごとのように呟くと、微かに鳳の耳に届いた。 「私もまだまだ半人前ですよ」 「いっつもしれっとした顔してるじゃん」 「そんなことありませんよ。買いかぶりすぎです」 「おまえの心底焦った顔とか切羽詰った顔、見てみたいなぁ」 亮はくくっと笑った。 「今日も亮様が池へ飛び込んだ時、とても慌てましたよ」 「うーん。もっと、あれよりすっげーの」 鳳がぴたりと足を止めた気配がした。 「…?…長たろ、」 「亮様は自分の首を締めている自覚が足りない」 すごい力で壁際に押し付けられて体の自由を奪われた。 叫びたいほど驚いているのに、塞がれた口からは声が出ない。 水浸しの大理石の床が悲鳴を上げた。 前 次 Text | Top |